九大,極小レーザをインクジェットプリンタで作製

九州大学の研究グループは,日産化学工業との共同研究により,これまで半導体工場レベルの装置・設備で作られてきた三次元的な円盤型の微小レーザ素子を,市販のインクジェットプリンタと同程度の技術を用いて安価で簡単に作製する手法を世界で初めて実現した(ニュースリリース)。


インクジェットレーザー印刷法

試作した円盤型のレーザ素子と動作特性

円盤型素子内のレーザ光の様子

 
レーザ分野のトレンドの一つとして,超低消費エネルギーで動作する微小レーザ素子がある。極小・超省エネであるため,あらゆるデータを扱うビックデータ用の光センサや情報通信分野などの次世代光応用において重要なカギとなっている。大きさは髪の毛の太さ程度(数万分の1メートル)と極めて小さく,その形状は三次元的で球・円盤・棒など様々で,透明なプラスチック・ガラス材料などによって作られるが,円盤型の微小レーザ素子が一般的に良い性能を示す。

微小レーザ素子が低消費エネルギーを実現するためには,表面を十分にきれいで滑らかにすることが重要となる。きれいな円盤を作るために,これまでリソグラフィといった,半導体工場レベルの高精度で比較的大きな設備や装置を必要としてきた。そのため,コスト・取扱い面においてハードルが高いだけでなく,作製過程において刺激の強い薬品や高熱処理を利用するため,応用用途が耐性のある無機物を用いた素子やデバイスなどに限られていた。

研究グループは,市販のインクジェットプリンタと同じ原理の技術を用いて,卓上サイズで安価で簡単に円盤型の微小レーザ素子を印刷できるインクジェットレーザ印刷法を確立した。この技術を使って作られたレーザ素子の性能は,従来の方法で作られたレーザ素子よりも22%省エネルギーであることが分かった。加えて,この方法によって作られた微小レーザ素子は,高い光を閉じ込める効果があることを計算により明らかにした。

今回の研究成功のカギは,(1)「濃くても粘性が低いインクを作る」ことと(2)「円盤を空中に浮かせる」ことにある。まず(1)について,きれいで滑らかな表面にするためには,水滴ができるくらい粘性が低いなインクを使う必要がある。しかし,レーザ素子として機能させるには円盤を厚くする必要があり,そのためにインクを濃くすると,インクの粘性は高くなる。そのため,「インクの濃度が高くても粘性が低いインク」を今回開発した。

次に(2)について,インクジェット技術でインクを飛ばしただけでは応用研究の実験に使用できない。地面に落ちた紙を拾うことが難しいように,円盤がインクを飛ばした面に張り付いていると,他の応用部品と一緒に使用することができない。何より,宙に浮いていないと性能が極端に悪くなる。今回,インクのブレンドや作製プロセスの最適化すると共に,インクでできた土台の一部をエッチングで溶かすことで,空中に浮いた円盤型の微小レーザ素子を作ることに成功した。

研究グループは今回の成果について,更なる作製工程の最適化により,専門家以外でも利用が可能になり,これまで応用分野に参入したくてもできなかったグループへの追い風になることが期待できるとしいてる。特に,センサ分野においては,通常環境(常温・大気圧下)で作製できる特徴を活かして,“どこでもセンサ”というコンセプトのもとビックデータの分野に大いに貢献できることを期待している。

また,現在の微小レーザ素子は強い光でないと動作しないが,今回作製された素子は大きな省エネ効果が見込めることから,将来的に太陽光などの自然の光で動作する素子の誕生が期待できるという。

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