九大ら,シリカの高圧相の形成条件をX線で発見

九州大学は,高輝度光科学研究センターとの共同研究で,シリカ(SiO2)の超高圧相であるザイフェルタイトが,従来予想されていたよりも非常に低い圧力で形成されることを世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。

シリカ(SiO2)は身近な鉱物だが,月や火星起源の隕石には超高圧環境でしか形成されないシリカ高圧相が発見されることがある。これは天体が月や火星に衝突した際の高い圧力で生じたもので,隕石衝突の重要な情報となる。

中でもザイフェルタイトと呼ばれるシリカの超高圧相は,約100万気圧以上の超高圧力下で安定に存在する鉱物だが,月や火星起源の隕石がそれほどの高圧力が発生する大規模衝突によって形成されたとは考えられないという謎があった。

研究グループはこれを解明するため,月や火星表層に存在するとされるクリストバライトというシリカ鉱物を用いて高圧実験を行なった。大型放射光施設SPring-8のビームラインBL04B1において,マルチアンビル装置と呼ばれる高圧発生装置と強力なX線を用いて,クリストバライトが高圧相に変わっていく様子をX線回折法によって数十秒毎に観察した。

その結果,これまで考えられていたよりも非常に低い圧力下(約10-30万気圧)において,ザイフェルタイトが出現することを見出した。また同条件下で時間がたつと,最も安定なスティショバイトという鉱物に最終的に変化することが観察された。このように最も安定な相(スティショバイト)が出現する前に,早く出現できる別の相(ザイフェルタイト)から順番に現れるという反応速度に依存した現象を「準安定相の出現」と呼ぶ。

これらの実験結果から,高圧相の存在には圧力に加えて時間の条件が重要であることがわかる。つまり,月や火星起源の隕石に存在するザイフェルタイトは,天体衝突という一瞬のイベントにおいて低圧下で準安定に形成され,安定相であるスティショバイトまで反応する時間がなかった,という可能性が明らかになった。

天体が衝突した際に発生する圧力の継続時間は,衝突した天体の大きさに依存する。研究グループは,月や火星起源の隕石に存在するザイフェルタイトの謎を解明するだけでなく,ザイフェルタイトの出現が時間に依存している性質を利用することにより,衝突した天体の大きさを推定することを可能にした。

実験結果によると,準安定のザイフェルタイトが形成されるには少なくとも約0.01秒の時間が必要で,そのためには直径約50m以上の天体が月や火星に衝突したことが推定できる。さらに,隕石中のザイフェルタイトの存在から衝突した天体の大きさを推定することが可能となったことで,今後の太陽系内の天体衝突の歴史を解明するための新たな指標となる。

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