岡山大学,中国科学院化学研究所,ドイツベルリン自由大学の共同研究グループは,光合成水分解反応の触媒であるMn4CaO5クラスターと類似のモデル化合物を人工的に合成することに成功した(ニュースリリース)。
光合成における水分解・酸素発生反応は、藻類や植物の葉の中の葉緑体にある光化学系II複合体と呼ばれるタンパク質で行なわれており,このタンパク質複合体中のMn4CaO5クラスターが触媒として,実際に水分解・酸素発生反応を進めている。研究グループはこれまでに,光化学系IIタンパク質複合体の高解像度構造を解析し,水分解触媒のMn4CaO5クラスターが歪んだ椅子型構造であることを突き止めている。
今回,共同研究グループは,合成化学的手法を用いて,Mn4CaO5クラスターに類似したモデル化合物を人工的に合成することに成功した。得られたモデル化合物はタンパク質の代わりに有機化合物に結合しており,天然のものと同じ化学組成と歪んだ椅子型構造を有している。さらに,人工的な酸化剤により天然の触媒と同じように1電子ずつ酸化され,電子スピン共鳴測定により天然の触媒と同じような反応中間体を取ることが判明した。
しかし,このモデル化合物が水を酸化することはできていない。原因は,天然の歪んだ椅子型触媒の構造と人工的に合成された化合物構造の歪みの位置の違いだとしている。このことは,天然触媒と人工化合物の間で異なった歪みの部位が水分解の触媒活性を発現するのに重要であることを示すもの。
人工光合成の実現には可視光を利用した水分解の触媒を人工的に合成することが不可欠となる。今回の研究成果は,天然触媒の反応機構を研究するためのモデルシステムを提供しただけでなく,天然触媒における特殊な歪みを人工的に再現することで,水分解活性を持つ人工化合物の合成を実現する大きな一歩となるもの。
今後,水分解の人工触媒の合成が成功すれば,太陽光と水から水素イオンと電子を取りだす「人工光合成」の実現も期待され,さらに水素燃料を作ることも可能になるとしている。
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