理化学研究所(理研)の研究チームは,太陽光エネルギーを水素として貯蔵する安価で簡便なシステムを構築し,エネルギー変換効率15.3%を達成した(ニュースリリース)。
現在の太陽光発電システムでは天候などによる発電量変動を十分に制御することが難しく,タイムリーかつ安定的なエネルギーが供給できないため,必要な時に必要な量のエネルギーを供給可能にするためのエネルギーの貯蔵方法が求められている。
研究チームは,太陽電池と水分解電気化学セルを用いた水の電気分解の技術を組み合わせて,太陽光エネルギーを水素として貯蔵するシステムの開発に取り組んだ。工業的に水分解を行なう場合,エネルギー効率が良くなるような「電気化学セル」の構造を使う。電気化学セルの場合,電解質として溶液ではなく導電性ポリマーを用いる。導電性ポリマーを用いることで,酸化・還元反応で生成した物質が混ざらず,かつ元の物質に戻ることがなくなる。
水分解電気化学セルの「電流-電圧特性」は,理論的には1.23Vの電圧を掛けることで,水の電気分解が起こり,電流が流れ始めるはずだが,実際には,1.48Vの電圧が必要となる。これは,電気化学セル内にさまざまな電気抵抗があり,エネルギーロスが起きていることを表している。
水の電気分解には,理論的には1.23Vの電圧で起こるが,実際には電気化学セル内のさまざまな電気抵抗により,約1.5V以上の電圧が必要となる。最も一般的なシリコン太陽電池は,電池1つの最大出力電圧が0.6~0.7Vしかない。そこで,研究チームは,太陽電池の直列接続を行ない,水の電気分解可能な電圧まで電圧を高めるとともに,もっともエネルギーロスの少ない接続方法について検討した。
まず初めに,シリコン太陽電池と電気化学セルを使った場合の光エネルギーから水素エネルギーへの変換効率を求めた。シリコン太陽電池を3個直列に接続した場合は2.0%,4個直列に接続した場合は6.1%であり,いずれも変換効率が良くないことが分かった。これは,シリコン太陽電池自体の光エネルギーから電気エネルギーへの変換効率が悪いことが大きく影響していると考えられるため。
そこで,フレネルレンズを用いて太陽の位置に合わせて効率よく集光できるタンデム型太陽電池を使用し,エネルギー変換効率の向上を試みた。その結果,光エネルギーから水素エネルギーへの変換効率が12.2%と非常に高い変換効率を得ることができた。
しかし,太陽電池の最大出力点(最大出力電圧2.12 V,最大出力電流95.9 mA)と電気化学セルの動作点(動作電圧1.55 V,動作電流99.3 mA)の間に大きな差が存在している。そこで,タンデム型太陽電池を2個直列,電気化学セルを3個直列に並べることで太陽電池の最大出力電圧と電気化学セルの動作電圧が近づくようにすると,エネルギー変換効率が15.3%まで向上することが分かった。
研究チームはこの成果を実用的なシステムとするために,太陽電池-電気化学セルというシステムの中核部分だけでなく,水素貯蔵法や,全体を流れるエネルギー,電流,水,排熱のロスといった周辺部分の最適化など,さまざまな試みが必須になるとしている。
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