原研ら,電子ビームとレーザでエネルギーの揃ったX線を生成

日本原子力研究開発機構(原研)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)の共同研究グループは,エネルギー回収型リニアック(ERL)において電子ビームとレーザビームを微小スポットで,1秒間に1.625億回という非常に高い頻度で衝突させる(高繰り返しで衝突させる)ことで,エネルギーのそろったX線ビームの生成に成功した(ニュースリリース)。

光速近くまで加速した電子ビームとレーザビームを衝突させることにより,任意のエネルギーのX線やガンマ線のビームを発生する方法は,レーザ・コンプトン散乱(LCS)と呼ばれ,エネルギーが数keVから100keVのX線領域では,大型放射光施設の性能に匹敵する高輝度の小型X線源に,また,エネルギーが1MeV以上のガンマ線領域では,唯一のエネルギー可変の大強度ガンマ線源となり得る。

しかしながら,電子とレーザの衝突確率が小さいために,LCSによるX線~ガンマ線源の実用化には,電子ビームとレーザビームを高密度かつ高繰り返しで衝突させる技術が必要とされてきた。

研究グループは,ERLとレーザ蓄積装置を用いることでLCS光源実用化の鍵となる電子ビームとレーザビームの高密度かつ高繰り返しの衝突が可能となることに注目し,これに必要な技術開発を進めてきた。

ERLは収束サイズの小さな電子ビームを高繰り返しで加速できることから,LCSに最適の加速器となる。KEKに建設されたコンパクトERL(ERL試験加速器)にLCS実験のための装置を設置し,2015年2月~4月の実験において,最小30 μmの微小サイズで電子ビームとレーザビームを162.5 MHzの高繰り返しで衝突させることで,10keV級の準単色X線ビームの発生に成功した。

この成果によりLCSを使った高輝度,大強度のX線,ガンマ線発生を可能にする基盤技術が確かなものとなった。今後,コンパクトERLにおける電子ビーム電流値を目標値(10mA)まで増加させることで,LCS光源として従来に無いX線強度が得られる見込み。

これにより,核セキュリティ分野におけるあらゆる核物質の非破壊検知・測定を可能にする大強度ガンマ線源(目標強度 1013ph/s)や,生体細胞の高分解能イメージングのための高輝度小型X線源(目標ピーク輝度1019ph/sec/mm2/mrad2/0.1%BW)といった,新たな計測・観察ツールとしての次世代光源へ道を開いたとしている。

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