京都大学の研究グループは,これまで測定が非常に難しかったカリウム原子核のメスバウアー吸収を,大型放射光施設SPring-8のBL09XUを用いた手法で初めて観測することに成功した(ニュースリリース)。
測定対象は,カリウム金属のナノ粒子が規則正しく配列することにより,磁気的な性質を帯びるという不思議な物質で,その磁性の原因にミクロな視点からせまる情報も初めて得られた。
メスバウアー分光法とは,放射性同位体から放出されるガンマ線を材料に照射し,そのガンマ線を共鳴吸収する元素が,材料の中でどのような状態にあるのかを精密に調べることができる測定法。
通常,測定にはガンマ線源となる放射性同位体が必要となる。鉄などはその入手が容易なため,鉄を含む物質では盛んに測定がなされており,カリウムもガンマ線を共鳴吸収する効果がある。しかし,カリウムに適したガンマ線源となる放射性同位体がこの世の中には存在しないため,通常の測定方法が全く利用できない。
カリウムについては,人為的に原子核の反応を起こさせる実験が50年ほど前に行なわれたきりだった。ところが,2009年にSPring-8の高輝度放射光を用いることによってもメスバウアー分光が可能であることが,別の元素(ゲルマニウム)において示された。
今回の研究では,その手法をカリウムに初めて適用し,データの取得に成功したもの。今回,原子核反応を用いた50年前の手法に比べれば大変簡便に測定ができることも分かった。
また,カリウムは地球上の地表近くに存在する元素の量のランキング(クラーク数)が第7位という極めてありふれた元素(ユビキタス元素)で,人間の体内にもたくさん含まれている。この研究の実験手法は,カリウムを含んでさえいれば,どのような物質にも適用可能なので,今後,さまざまな分野で活用されることが期待されるとしいてる。