農研機構,遠赤色光の花芽形成促進を発見

農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は,ニホンナシに遠赤色光を夜間照射すると,花芽形成が促進されることを明らかにした(ニュースリリース)。

ガラス室内で日照時間を一日8時間に制限して栽培したニホンナシの樹に,4月上旬~8月上旬の夜間相当期に赤色光または遠赤色光を連続照射したところ,遠赤色光照射処理区では枝伸長停止期,花芽形成期ともに早まり,照射終了時には21~40%の花芽形成率となった。これは,花芽形成を抑制する2種類の遺伝子の発現が遠赤色光の照射によって低下し,花芽の分化と発達の両プロセスが進行することにより起こる。

遠赤色光源として,遠赤色波長域を強化した蛍光灯1種と,ピーク波長の異なる遠赤色LED光源3種を供試したところ,花芽形成促進効果が認められたのはピーク波長730nmのLED光源と遠赤色強化蛍光灯の2つだった。このことから,730 nm付近の波長の光が花芽形成促進に効果的であることが分かった。

多くの落葉果樹は収穫前年の夏に花芽を形成するが,猛暑の年になると花芽形成が不良になり,花芽不足になることがある。しかし,このような年でも遠赤色光を夜間照射することにより,花芽の減少を抑えられることを明らかにした。ニホンナシを含むバラ科ナシ亜科の果樹では,これまで,花芽形成の制御に光はほとんど関係しないと考えられており,光質によって花芽形成を制御できることを示したのは今回が初めて。

研究グループが照射した光強度は枝発生面で受光量1~2 mmol s-1 m-2。現在入手可能な遠赤色LED光源は出力が弱いため,試験では2.4個/m2の密度で配置した5WのLED電球を枝発生面1.5mの距離から照射しており,この光量を栽培現場で実現するのはコスト的に難しいという。

今後,果樹の光に対する反応を詳細に検討し,光照射時期の絞り込みや照射強度の低減化を図るとともに,より安価で高性能な光源が開発されることによって,気候温暖化条件下での果樹の安定生産につながることが期待できるとしている。

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