KDDI研究所は,一般的な光ファイバより100倍以上大容量化できる新しい光ファイバを開発し,100を超える空間光多重伝送実験に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
空間光多重伝送方式は,1本の光ファイバに光の通り道(異なるコアや異なる伝搬モード を利用)を複数設けることにより,光ファイバ1本あたりの伝送容量を飛躍的に拡大できる。これまで光の通り道の数(空間多重数)は最大でも数十個程度だったが,今回,クロストークを極力小さくすることで,世界で初めて空間多重数が100を超える伝送実験(空間多重数:114,伝送距離:9.8km)に成功した。
さらに,実験では従来よりも約40%向上した世界最高性能の周波数利用効率 345 bit/s/Hzを達成した。これは現在の一般的な商用システムの約170倍に相当する。この研究の一部は,情報通信研究機構(NICT)の高度通信・放送研究開発委託研究「革新的光ファイバの実用化に向けた研究開発」(i-FREE2)(平成25年度~平成29年度)の成果。
同社は,今回,協力会社とともに,1つの波長の6つの伝搬モードに異なる信号を多重(または分離)することが可能な6モード多重(分離)器,各多重器から出力される6モード多重信号をマルチコアファイバの19個のコアそれぞれに入力することが可能な入出力デバイス,そして,1つのコアに6つの伝搬モードを伝送可能な19コア光ファイバを新規に開発した。
コア間や伝搬モード間の“混信”をファイバ構造や部品構成を特殊設計することにより,その発生を極力抑えることに成功し,コア数×モード数を従来よりも3倍以上になる,空間多重数114を達成した。さらに,既存システムの波長多重技術と偏波多重技術を,この空間光多重技術と組み合わせることで,システム全体の周波数利用効率を世界最高の345 bit/s/Hzまで向上した。
加えて,“混信”を抑えたシステムの実現により,伝搬モードを分離するための信号処理(MIMO: Multiple Input Multiple Output)負荷を従来の約1/2に低減することに成功した。これは,このシステムの実現性の向上とシステム全体の消費電力の低減が期待でる成果。
同社は今後,マルチコア・マルチモード光ファイバの性能向上と更なる信号処理負荷の軽減を図ることにより,更なる伝送距離の延伸化を進め,実用化に向けて前進させていく。
関連記事「住友電工,125㎛クラッド8芯マルチコアファイバを開発」「NICTら,36コアマルチモードファイバを開発」「マルチコアファイバを用いた光通信技術,実現は目前に」