情報通信研究機構(NICT)は,住友電気工業(住友電工),横浜国立大学(横国大),オプトクエストと共同で,世界最高の36コアで,かつ,すべてのコアがマルチモード伝搬の新型光ファイバを開発し,光信号の送受信実験に初めて成功した(ニュースリリース)。
増大し続ける通信トラフィックに対応するために,光ファイバに複数のコアを配置したマルチコアファイバと,コア径を広げて一つのコアで複数の伝搬モードに対応したマルチモードファイバの研究がさかんに行なわれている。これらの光ファイバを実用化するためには,現在,光通信で使われているシングルコアでシングルモードの光ファイバ(SMファイバ)との接続デバイスが重要で,その研究も並行して行なわれている。
2種類の新型光ファイバの製造技術及び疎通評価を合わせて,マルチコアファイバの各コアをマルチモード伝搬にすると,光信号の空間チャネルが大幅に増え,通信容量が飛躍的に増大する。しかし、マルチモード伝搬にするためにコア径を広くするとコアから漏れた光信号の干渉が大きくなる問題や,SMファイバとの接続方式が複雑で,12コアで3モードの光ファイバしか実現していなかった。
今回NICTは,36コアすべてがマルチ伝搬モードの新型光ファイバと,SMファイバとを空間結合装置を介して接続し,「36コア×3モード=108」の空間チャネルで通信波長帯の光信号の送受信実験に成功した。
実験では,横国大と住友電工が共同で「36コアマルチモードファイバ」を設計し,住友電工が製造した。また,「既存の光ファイバと接続する空間結合装置」は,NICTとオプトクエストが設計し,オプトクエストが製造した。
今回,ファイバ製造能力の限界に挑み,技術的可能性を拡大するために,3モード型で36コアファイバを作成し,108個のすべての空間チャネルが独立した別々の通信チャネルとして使用可能であることを,ファイバ長5kmにおいて実験的に証明した。これまでNICTが発表していたマルチコアファイバのコア数は,シングルモードで19が最大で,これが限界と考えられていた。
空間結合装置については,これまでマルチコアシングルモードファイバ用に開発していたものに伝搬モードの異なる光信号を合波する機能を追加し,1台でマルチコアとマルチモードに対応することができた。今回の実験では,すべてのコアのためのモード変換及び合波を一つの光学システムでまとめて行なえるようにした。これにより,大幅な部品点数の削減が可能になる。
これまでシングルモードシングルコアで達成された伝送容量は,毎秒約100テラビットのため,単純計算で108の空間チャネルをすべて用いれば,今回,毎秒10ペタビットを越える可能性を示したことになる。マルチコアファイバを用いた伝送実験では,これまでのところ,12コアや14コアファイバを用いた毎秒約1ペタビットが世界記録だったため,今回の成果により,今後の光ファイバ通信における躍進の可能性は,10倍強,引き上げられたことになる。
今後は,各コアの均一性や形状,モードのコントロール,信号干渉の低減などが課題となるというが,この技術が実用化すれば,より安価で大容量のネットワークサービスの実現が期待できる。
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