電通大ら,スピントロニクス材料MoS2の全時間測定に成功

電気通信大学と台湾国立交通大学の研究グループは共同研究において,スピントロニクス材料として注目を浴びている層状物質MoS2について,スピン・バレー結合及びスピン分極,バレー分布密度,励起子密度全ての緩和過程を明らかにすることに成功した(ニュースリリース)。

電気通信大学は,可視光超短パルスレーザで,この15 年間最短パルス記録を更新して世界をリードして来た。更に紫外光超短パルスレーザ,深紫外光超短パルスレーザでも高い性能を持った最短パルスの分光用レーザを開発してきており,これらを用いて,種々の物質内の超高速現象を研究してきた。

MoS2はスピントロニクス材料として注目を浴びている物質群の中で最も良く研究されている層状化合物で,そのバンド構造の中の二つのバレー(谷,K,K’)とスピンが極めて強く結合している。その強い結合のために,室温においても円偏光によって書込み,読出しを安定に行なうことができる。

この特殊な性質を持つことから,MoS2は多準位超高速ロジックゲート作用への応用が期待されている。スピントロニクスはエレクトロニクスの限界を超える技術として次世代情報処理や電子技術の推進力として期待されている。

その一環として,開発したレーザを用いて,この物質のスピン・バレー結合及び励起子のダイナミクスを10fs(100兆分の1秒)の高時間解でロジックゲートの動作ダイナミクスを決定するスピン分極,バレー分布密度,励起子密度全ての緩和過程を明らかにすることに成功した。しかも,10fsから1ns(10億分の1秒)という5桁に渡る時間発展をスペクトル分解して測定した。

これを示した図が左。ここに,励起パルス光による吸収強度変化をその光子エネルギーと励起光パルスからプローブ光パルスまでの遅延時間(ps単位)に対して疑似カラーでプロット2次元時間分解差吸収スペクトルが示されている。

 

a: 右回り円偏光励起-右回り円偏光プローブ
b: 右回り円偏光励起-左回り円偏光プローブ
c: 時間分解差吸収スペクトル. a の横軸方向の断面図に相当
d: 分解差吸収強度の遅延時間依存性. a の縦軸方向の断面図に相当

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