東大ら,最高品質の酸化亜鉛界面で新たな量子相を観測

東京大学,理化学研究所,東北大学の研究グループは,マックスプランク固体研究所と共同で,世界に類を見ない極めて高品質な酸化亜鉛ヘテロ界面を作製し,砒化ガリウム以外のヘテロ界面でこの特殊な量子相の観測に初めて成功した(ニュースリリース)。

酸化亜鉛は可視光を透過し紫外線を吸収するため,白色顔料や日焼け止めとして古くから用いられてきた物質であり,安価で無毒という特長がある。近年では,窒化ガリウムと並び,青色・紫外発光ダイオードの応用へ向けた研究が行なわれてきたほか,トランジスタの研究も精力的に行なわれており,電子が非常速く動くことのできるヘテロ界面の作製が可能となってきている。

このような電子は高移動度電子と呼ばれ,電気的な応答が速いため無線通信など高周波用途に応用されている。材料としては,砒化ガリウムなどの化合物半導体が用いられ,ヘテロ界面に電子が形成されている。高移動度電子の応用は高周波用途のみならず,量子コンピューター応用が期待されている。高移動度電子は強磁場を加えると円軌道を周回し,その結果「量子ホール効果」と呼ばれる,集団的な挙動を示す。

量子ホール効果はさまざまな種類が存在するが,その中でもある特殊な状態がエラーの起こりにくい量子コンピューターへ応用可能であると理論的に予測されている。この特殊な量子相は約30年前に最高品質の砒化ガリウムを用いたヘテロ界面で発見されて以来,その素性を検証すべく研究が行なわれている。しかし,砒化ガリウム以外の半導体では十分な品質のヘテロ界面を作製できないため,多角的な検証ができない問題があった。

研究グループは,酸化亜鉛ヘテロ界面においてこの量子相を観測することを目指して,電子移動度を向上させるために作製手法の改善を試みると共に,酸化亜鉛では添加元素の導入を必要としないことや,構成元素にすでに酸素が含まれており,酸素が不純物とならないといった特徴を活かし,世界に類を見ない極めて高品質な高移動度電子の形成に成功した。

このような酸化亜鉛ヘテロ界面における高移動度電子系に対して磁場を加えると縦抵抗が振動し,ホール抵抗が階段状の変化を示し,上述の量子ホール効果が観測された。特に,電子の数と磁束量子の数の比をeという指標で表すが,従来の電子系ではe = 3/2となる磁場付近では量子ホール状態とならない。

しかし今回,特殊な状態が安定になり,量子ホール状態になっていることが観測された。試料を水平に置いたときには量子ホール状態ではないが,試料を40度ほど傾けると縦抵抗がゼロに近くなり,ホール抵抗が平坦になる量子ホール状態を示した。これは,30年ほど前に砒化ガリウムのヘテロ界面においてe = 5/2となる磁場付近で観測されたものと同様の状態であると考えられ,2つの複合粒子が引力で引き合うときに発現すると理論的に予測されている。

しかしながら,砒化ガリウムでは試料の回転でこの状態のオン・オフを切り替えることはできず,これは酸化亜鉛に特徴的な性質によるもの。この特徴は,酸化亜鉛中の電子が持つ円運動のエネルギー(Ecyc:N = 0, 1, 2, …で表される)と磁気的なエネルギー(EZ:↑,↓の2つで表される)が同程度の大きさであり,試料回転でこの2つのエネルギーの大小を変化させられることに起因する。

今回,酸化亜鉛のヘテロ界面で観測された特殊な量子ホール効果は,エラー耐性の強いトポロジカル量子コンピューター応用が可能であると予想されている。これは,全体の状態が複合粒子の交換の順番によって変化する,非可換性と呼ばれる特殊な性質を利用している。他の原理による量子コンピューターに比べ,温度や不均一性などから生じるゆらぎに対して非常に強いことが特長となる。

研究グループは,特殊な量子相を制御する自由度が高い可能性をも示した酸化亜鉛ヘテロ界面研究によって,特殊な量子相のより深い知見とこの量子相の位相制御などの研究発展が期待されるとしている。

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