高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所,理化学研究所,高輝度光科学研究センター,スウェーデン ルンド大学,デンマーク工科大学を中心とする研究グループとの共同研究により,光合成反応のモデル化合物内で電子が移動する過程を,X線自由電子レーザ(XFEL)施設SACLAを用いて可視化した(ニュースリリース)。
植物が行なう光合成は,葉の中にあるクロロフィルという色素が光エネルギーを吸収することで,クロロフィルから電子が一つ抜け,別の分子へ移動することから始まる。これは光合成反応初期過程の最も重要なプロセスの一つだが,約1ピコ秒(1ピコ秒=1兆分の1秒)という極めて短い時間内に進行するため,クロロフィルが光を吸収してから,電子一つが移動するプロセスは謎に包まれていた。
研究グループは,クロロフィルにおける電子移動のモデル化合物として,ルテニウムとコバルトを含む分子を用いた。この分子に0.1ピコ秒という短い時間幅の可視光を照射すると,ルテニウムから1個の電子が抜け,抜けた電子が分子内を移動してコバルト側に移る様子を観測した。
このような金属原子の間の電子の移動過程は,X線発光分光で,また電子の移動に伴う分子構造の変化は,X線溶液散乱で精密に調べることができる。この実験では,可視光を照射した後に時間を追ってX線発光分光とX線溶液散乱を同時に測定したところ,光照射から約0.5ピコ秒後にコバルト側に電子が移動して,コバルトの状態が三価から二価へと変化し,さらに約2ピコ秒後にコバルト原子周辺の分子構造が変化することが明らかとなった。
この結果は,植物の光合成を理解することに役立つだけでなく,光合成反応を模倣して,人工的に光エネルギーを化学エネルギーに変換する人工光合成の開発に役立つことが期待される。研究グループは今後,この手法を用いて太陽光を利用した人工光合成のための光触媒の開発研究も精力的に進めていくとしている。
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