京大,SPring-8 で鉄触媒を用いるクロスカップリング反応の直接観察に成功

京都大学の研究グループは,JST 戦略的創造研究推進事業(CREST)において,大型放射光施設 SPring-8 を利用して鉄触媒を用いるクロスカップリング反応の様子を反応溶液中で直接観察することに成功し,これまで45年間反応機構が未解明であった鉄クロスカップリング反応について直接証拠に基づいた新しい機構の提唱を行なった(ニュースリリース)。

安価で入手容易な鉄を触媒して用いる鉄クロスカップリング反応は,従来の貴金属触媒によるクロスカップリング反応に代わる次世代の基盤化学技術として期待されている。しかし,鉄を触媒とする反応では,その常磁性のために NMR 等の一般的な分析手段を用いて触媒反応の様子を調べることができなかった。そのため,触媒機能の向上や反応効率の改善のために,鉄の触媒作用を直接観察できる新しい手法の開発が望まれていた。

研究グループは,大型放射光施設SPring-8の強力なX線を利用したX線吸収分光(XAFS)を用いて,クロスカップリング反応中で鉄触媒のはたらきや構造を直接観察することに成功し,45年以上議論の続いている鉄触媒クロスカップリング反応の機構を明らかにした。XAFS法は常磁性に影響されることなく,対象とする触媒金属分子の価数や構造を精密に決定することが可能な分析手法だが,均一な有機溶液中の分子種についての研究例はほとんど知られていなかった。

研究グループは,溶液XAFS用に開発した独自の溶液セルを用いて,反応溶液中のFe触媒のXAFS測定を行なった。その結果,実際に作用している鉄触媒の価数や構造の直接決定することに成功した。

研究グループはこの成果について,鉄触媒を用いる有機合成反応のさらなる発展と深化に必須の分析手段であるだけでなく,常磁性のために触媒作用の解明が遅れている Cr,Mn,Co,Cu 等の元素戦略上重要な他のベースメタル触媒の研究においても画期的な分析手段になり得るものだとしている。

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