産総研,ウェアラブルデバイスに適した高伸縮性・高耐久性配線を開発

産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは,伸縮性の高いデバイスを実現するため,導電性繊維をバネ状に形成した高伸縮性バネ状導電配線を開発した(ニュースリリース)。

近年注目されているウェアラブルデバイスは,人体表面などの曲面にフィットさせて用いるため,高い伸縮性と共に,伸縮・屈曲の繰り返しに対する耐久性が必要となる。

研究グループは,高伸縮性樹脂シート上に導電性繊維をバネ状に形成し,高伸縮性の導電配線を開発した。この導電配線は,3倍以上伸長(伸長率200%以上に相当)しても,20万回以上折り曲げても(曲げ半径0.1mm以下)抵抗値変化は1.2倍程度と安定な電気特性を示す。

LED用配線として用いた場合,伸長時に配線抵抗が大きく変化すると,LEDの発光輝度も大きく変化するが,今回開発したバネ状導電配線を用いると,200%以上に伸長してもLEDの発光輝度がほとんど変化せず,伸長時の抵抗値変化が非常に小さいことが分かった。

また,一般に伸縮性の導電配線を伸長・収縮させた場合,電気抵抗の緩和現象が発生し抵抗値が安定するまでに時間がかかる。一方,今回開発した導電配線は伸長・収縮時の抵抗値変化や安定するまでの時間が短く特性が安定しており,センサなどの信号配線として利用できる。

ウェアラブルデバイスに適用するためには,高伸縮性電極も任意のパターンに形成する必要がある。今回,導電性の短繊維を高い配向性を持たせパターニングすることにより高伸縮性を持つ電極を形成する方法を開発した。この電極は,広い面積に形成できるため,高伸縮性キャパシタを作製することができる。このキャパシタは柔軟なため,圧力などの力学的変化により発生する容量変化を検出する容量型圧力センサとして利用できる。

従来のマトリクス状圧力センサーシートは,フレキシブルだが伸縮性のないものがほとんどであった。そこで,開発した高伸縮性短繊維配向型電極を用いて,容量型圧力センサをマトリクス状に形成し,信号配線として高伸縮性バネ状導電配線を用いて,高伸縮性と高屈曲耐性を合わせ持つ新たなマトリクス状センサシートを作製した。

このセンサシートは200%伸長しても,0.1mm以下の曲げ半径で20万回以上折り曲げても安定に動作する。伸縮性・耐久性は十分に実用化スペックを満たすものであり,靴の中のように人間の体重の負荷が長時間かかり変形を繰り返すような過酷な環境でも使用できるため,靴底圧力分布センサーとして用いることができるとしている。

研究グループは今後,産業化に対応するため効率的な生産プロセスを開発していくと共に,今回開発したマトリクス状センサシートを用いた日常的な体調管理システムや,高齢者介護のための見守りセンサシステムなどのトータル設計を推進していくとしている。

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