原研ら,レーザで鉄の原子核を光の1/5の速さに加速することに成功

日本原子力研究開発機構(原研),神戸大学,九州大学,大阪大学,ロシア合同高温研究所の共同研究チームは,強いレーザ光で電子をまとわない状態(「裸」イオン状態)の鉄の原子核を作り出し,その原子核を世界で初めて光の1/5の速さに一気に加速することに成功した(ニュースリリース)。

この手法を応用すれば,これまで実験室内で生成できても短時間ですぐに壊れるため取り出すことが困難であった原子核を取り出すことが可能になり,原子核の詳細な研究・分析に新しい道を拓くことが期待できるという。

強いレーザ光を物質(ターゲット)に照射すると,物質中の原子は瞬時にプラズマ化し,電子を全く持たない「裸」イオン状態,もしくは「裸」イオンに近い多価イオン状態になると同時に,プラズマ中に生じる強い電場により,一気に加速されて物質から引き出されると考えられてきたが,実験的に示した例はなかった。

今回,共同研究チームは,薄膜ターゲットの材質として,安定した品質の薄膜を作ることができるアルミニウムを採用したうえで最適な厚みを見出した。さらに,ネオンよりも重い原子核にしか感度を示さないポリイミド膜を用いた新型検出器と,精密なX線分光を組み合わせた。

これにより,国内外の原子核物理の研究所などにある,電気の力で粒子を加速する大型の重元素加速器と同じように,光で「裸」の鉄原子核を加速して取り出すことができることを世界で初めて実験的に明らかにした。

現在,重元素を加速するのには大きな加速器が必要だが,この技術によって装置の小型化が図れる。さらに,天体現象中(例えば超新星爆発)のみで創り出されるような極めて短時間で壊れる重元素を,従来の加速器技術を駆使した元素合成手法により実験室で模擬的に生成し,今回の手法によって短時間で効率良く取り出すことができるようになれば,今までわからなかった元素合成過程の解明や新しい重元素の発見をもたらす可能性があるとしている。

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