富士通研究所は,顔が判別できない低解像度映像から人の動きを高精度に検出し,人の流れを認識する技術を業界で初めて開発した(ニュースリリース)。
近年,施設内や街中での人の移動経路の情報を使って,店舗の配置や店舗内の品ぞろえ,店員の配置などを最適化し,顧客サービスの向上を図る取り組みが始まっている。街中では,イベント時の混雑解消,交通機関の運行計画策定や災害時の避難誘導をおこなうため,人の流れ情報の活用に期待が高まっている。
街中や商業施設内に設置された監視カメラの映像を活用して人の流れ情報を認識する場合,撮影される個人への配慮が必要となる。近年,監視カメラの高解像度化が進み,人の顔がかなり鮮明に認識できるようになってきた。防犯という観点では問題ないが,プライバシーの問題が顕著になってきている。
同社は今回,低解像度映像でも,人の姿勢や撮影方向の影響を受けずに人特有の特徴が残る部位として頭部に着目した。頭部は,前後左右いずれの方向から見ても,ほぼ楕円型であるという形状特徴があり,さらに人の上部にあるといった位置の特徴を備えている。こうした特徴は,低解像度でも失われにくいという点を利用している。
具体的な抽出方法は以下のとおり。
1.頭部の形状特徴に着目し,入力画像から頭部候補を抽出する。
2.同じような形状が多く検出されるため,頭部下部にある胴体部分を合わせて使うことで,低解像度でも高精度に人を検出する。
3.2.の検出の際に,人の前後関係を認識して手前の人から順番に検出し,重なって隠れる部分を奥側の人の動体部分の検出に反映させることで,多数の人が重なり合って映っている場合でも人を確実に検出する。
この方法により,複数の人の頭部と胴体部分をそれぞれ認識することができる。さらに,検出した人の特徴を複数のカメラ間で対応付けすることで,カメラ間における人の動きを認識する。
色は,解像度にかかわらず同じように抽出できるが,一般に低解像度映像では,細部の色は近い部分の色に吸収,混色され,うまく検出することができない。そこで,検出した人の服装の色から特徴的な色だけを選択し抽出することで,低解像度映像からの安定した人の対応付けを可能にした。
従来,人の顔が特定できない低解像度映像では人の検出や対応付けが困難だったが,開発した技術を用いることで,屋内における実験では,約80%の人の追跡が可能となり,人の流れを検出することができた。これにより,撮影される側のプライバシーに配慮した監視カメラ映像の利用が可能となる。同社は更なる実証実験により人の検出精度を向上し,2015年度中の実用化を目指す。
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