東北大ら,光で筋肉を再生する技術を開発

東北大学と大阪大学の研究グループは,緑藻の一種・クラミドモナスで発現し,機能している光応答性イオンチャネル(チャネルロドプシン)の改変体を筋芽細胞に組み込むことで,光に対して感受性を持つ筋細胞を開発した(ニュースリリース)。また,その細胞に光を照射することで,収縮能力を獲得した骨格筋細胞に成熟させることに成功した。

未分化な細胞が分化・成熟する過程が活動依存的であることが様々な細胞や組織において報告されており,骨格筋においても収縮能を獲得するには電気刺激や張力などの外部からの刺激が必要であることが知られている。従来の液性因子(タンパク質)による細胞培養法では刺激に対して収縮運動する細胞が少なく,骨格筋を対象とした研究は主に動物実験で調べられてきた。

研究グループでは,チャネルロドプシンの改変型の一つである,チャネルロドプシングリーンレシーバー(ChRGR)の遺伝子を遺伝子工学技術を用いて筋芽細胞に組み込むことで,光に対して感受性を持つ筋細胞を開発し,培養中の細胞に対して継続的に青緑色光を照射した。

その結果,光照射を与えた細胞では細胞内にある収縮の最小構成単位であるサルコメア構造の発達が促進されることを確認した。また,このように発達した筋細胞が,光刺激に応答して収縮することが分かった。その効果は ChRGR を発現する細胞のみに特異的であることが認めらた。

さらに検討を進めた結果,一定の周期的なリズムを持ったパルス刺激(1 Hz)が効率的に成熟した筋細胞への分化を亢進させること,この現象は細胞内カルシウムの振動が重要であることが示唆された。

筋肉が関与する筋萎縮性側索硬化症(ALS)や遺伝性ニューロパチーなどの疾患に対して,現在のところ有効な予防法や治療法はない。光で制御できる光応答性骨格筋は光の強度や周波数,持続時間を自在にコントロールすることで様々な細胞活動を与えることができ,極度の筋力低下を伴うこれらの重篤な難病患者に対する新しい治療法の開発が見込まれる。

さらに,患者自身の iPS 細胞やMUSE 細胞などの多能性幹細胞から得られた筋芽細胞に,今回開発した技術を適用すれば,近い将来,神経入力の代わりに光照射することにより,失われた骨格筋の機能を補完・回復できる新しい治療法の開発にもつながる。

研究グループでは今回の成果が,光照射に応答して収縮する能力を獲得した骨格筋細胞や,マイクロマシンの駆動源となるバイオアクチュエータを効率よく製造することにも期待できるとしている。

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