原研,国際熱核融合実験炉の磁場コイルに用いる高性能超伝導導体を作製

日本原子力研究開発機構(原研)は、国際熱核融合実験炉イーター(ITER)のトロイダル磁場コイルに用いる高性能な超伝導導体(以下,「導体」)を開発し,量産技術の確立により我が国が分担する全導体の製作を完了した(ニュースリリース)。導体の評価試験により製作した導体が良好な性能であることを昨年12月までにイーター機構が承認し国際的に確認された。

トロイダル磁場コイルはイーターの主要機器の1つで,数億℃のプラズマを閉じ込めるための強力な磁場を発生する。イーターのトロイダル磁場コイルには,超伝導としては世界最大の6万8千アンペアの大電流を流す導体が必要となる。

導体は超伝導素線(以下,「素線」)を撚り合わせて前例のない最長760mの長尺ケーブルにし,これをジャケットと呼ばれる金属管に引き込んで外径を圧縮して製作する。原研はイーター参加7極中で最も多い全体の25%の導体製作を担当し,2007年から世界に先駆けて導体の製作を開始し,製作した導体は総延長22km,総重量は215トンに達した。

原研は今回,高性能な導体を実現するための開発とその量産技術の確立をした。導体開発では,素線内部のニオブフィラメントの大きさと配置を最適化することにより,従来よりも約30%高い臨界電流を持つ素線を開発し大電流を可能とするとともに(課題①),量産で性能を長期安定して確保するため,素線の性能を統計的に管理する品質管理手法を構築し,検査結果をデーターベース化して,製作プロセスや品質異常の早期発見を可能とした(課題②)。

また,長尺ケーブルのジャケットへの引き込みでは,ケーブルにうねりがあると摩擦が大きくなり途中で詰まってしまうという課題を解決するため,素線の撚り合わせの張力を均一に保つ工夫によってうねりの少ないケーブルの製作手法を開発した。(課題③)

このように,世界に先駆けて製作を進める中で,直面した新たな技術課題を解決し,国際合意したスケジュールに基づき導体の製作を予定通り完了した。また,技術課題と解決法を国際的に共有し,プロジェクトの前進に貢献した。導体の製作完了はイーター建設における重要なマイルストーンの達成であり,原研では,完成した導体を用いてトロイダル磁場コイルの製作を開始するなど,イーター建設を着実に進めていくとしている。

関連記事「原研ら,核融合炉でトリチウムを効率的に回収する新たな触媒を開発」「原研,国際核融合材料照射施設に用いる高速液体リチウム流の長期安定性を実証」「原研,核融合炉に必要な出力を長時間維持できるプラズマ加熱用マイクロ波源を開発」「NIFS,1億度に迫るイオン温度9,400万度を達成など核融合研究を更に前進