東京農工大学のグループは,細く高い金属ナノフィンの周期構造を製作することで,可視光の波長域で最大40%を超える高い透過率と,2 分の1波長に迫る大きな位相差170°を合わせもつ,金属メタマテリアルを実現した(ニュースリリース)。この成果は今後,超高速光通信や3Dプロジェクタへ応用されることが期待されるもの。
金属を光の波長程度のサイズで平面的にパターニングした金属メタマテリアル(メタサーフェス)は,超小型な光学素子を製作できることから,様々な分野での応用が期待されている。しかしながら,金属メタサーフェスを光が透過する際の損失が大きく,透過率が低いという問題点があり,大きな複屈折と高い透過率を両立することが困難だった。
また,使用する光の波長と同程度の加工寸法を要するため,波長の短い可視光における研究が少ないことが現状だった。研究グループはこれまで,電子線描画と金属蒸着を組み合わせた手法で,金属の周期細線を並べた格子構造を用いて,可視光で動作する金属メタサーフェスの偏光変換素子を製作したが,透過率は3%程度と少ないことが従来法の問題だった。世界的にも,位相差がこの手法の半分の4分の1波長板において透過率50%という例はあるものの(2分の1波長板になると25%相当),金属メタサーフェスで2分の1波長板を実現した例はなかった。
従来透過率が低かった原因は,透過面内で金属の占める面積が大きいため,光が反射・吸収される割合が大きくなってしまうことが主な原因だった。今回,格子構造を形成する金属の細線1本1本を,細く高いフィン状構造として,面内で金属の占める面積を減らすことで,透過率を向上させることを目指した。
作製にはナノコーティング法とよばれる製作方法を採用することで,フィン状構造体の製作に成功した。製作した構造の透過率および複屈折位相差を測定したところ,透過率に関しては,可視光の広い帯域で40%~60%の高い値を得た。また,位相差についても,波長633nm で170°と,2分の1波長(180°)に迫る大きな位相差を得て,高い透過率と大きな位相差を両立させた。
研究グループは,この研究の成果を応用することで,超高速光通信のための光制御素子や,3D動画プロジェクタのための空間光変調器へ応用されることが期待されるほか,将来的には,透明マントなどの光メタマテリアル研究の発展に貢献するとしている。
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