NICTら, 量子通信における量子もつれ光子対の生成効率を30倍にすることに成功


情報通信研究機構(NICT)は,電気通信大学と共同で,光ファイバ通信波長帯における量子もつれ光子対の生成効率を向上させる技術の開発に成功した。(ニュースリリース)。

量子もつれ光子対は,離れた2地点にある信号間に強い結びつきを形成できるため,レーザ光では実現できない安全な通信(量子暗号)や高速の計算(量子計算),さらには高精度の光計測を実現できる。しかし,量子もつれ光源は,特殊な結晶や駆動用レーザが必要となり,量子もつれ光子対を高速で生成し検出することは容易ではない。

現在,高速化に向けた研究開発が世界中で行なわれている。これまでも,駆動用レーザの強度を上げることで,量子もつれ光子対の生成速度を上げる方法が試みられてきた。しかし,雑音も同時に増えるため,量子暗号通信に使おうとすると,通信性能の劣化を引き起こすという問題があった。

しかも,これまでの研究では,光ファイバ通信波長帯(1,550nm付近)より短い波長帯(800nm以下)での開発がほとんどで,また,駆動用レーザの動作速度も76MHz程度に止まっていた。

NICTでは,通信波長帯において独自の高純度量子もつれ光源を開発してきた。今回,2.5GHzの駆動用レーザをこの高純度量子もつれ光源に組み合わせることで,雑音を増やすことなく,量子もつれ光の生成速度を30倍以上高速化することに成功した。

量子もつれ光源を駆動するためには,波長やパルス幅等のパラメータを自在に調整でき,なおかつ高速で安定動作のできるレーザが必要となる。NICTが2006年に開発し,改良を進めてきた周波数コム光源は,これらの要求をすべて満たす性能を備えたパルス光源となっている。今回の成果は,この周波数コム光源を内蔵した高速の駆動用レーザシステムを新たに開発することによって実現した。

具体的には,動作速度2.5GHzの周波数コム光源から発生された基本波(波長1,553nm)の光パルス列は,2倍波(波長776.5nm)に変換され,非線形光学結晶を励起するための駆動用レーザ光として使用される。非線形光学結晶には,光学損失が少ない周期分極反転ポタシウムタイタニルフォスフェート(PPKTP)結晶を使用した。このPPKTP結晶において群速度及び位相整合条件を調整することで,良質な量子もつれ光子対を生成することができる。

生成した量子もつれ光子対は,偏光ビームスプリッタにより1つ1つの光子に分けられた後,光ファイバを使ったビームスプリッタによって再び混ぜ合わせることにより干渉させる。その後,単一光子検出器へと導波され,量子もつれ光子対の数を計測する。

今回,光ファイバ通信波長帯で量子もつれ光源の高速化が実現したことにより,安価で高性能の光部品との組み合わせが可能となり,量子暗号の応用用途を広げられるとともに,量子計算や高精度の光計測の実現に向けた研究開発の加速化が期待されるという。

研究グループは今後,動作速度を10GHzまで向上させ,装置を小型化してフィールド環境下での量子暗号伝送実験などを進めながら,データセンタ内の安全な光配線技術や企業内ネットワークへの応用に向けた研究開発を進めるとしている。

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