東大,神経活動を可視化する超高感度赤色カルシウムセンサを開発

東京大学は,生きたマウスの神経活動を計測できる高感度・超高速の赤色蛍光カルシウム(Ca2+)センサの開発に成功した(ニュースリリース)。

近年,たんぱく質性蛍光Ca2+センサは生きている哺乳類の脳の神経活動・シナプス活動を計測するために利用されつつある。しかし,これまでの実用的なCa2+センサは計測波長域が緑色域に限定され,生体内で神経活動を高速・高感度に計測できる赤色Ca2+センサの開発が望まれていた。また,従来のCa2+センサは神経細胞が記憶を成立させるなどの際の高頻度神経発火を計測できないという問題があった。

研究グループは,Ca2+結合領域に新規配列を用いることでCa2+に対する結合力を上げ(高感度),かつ高頻度神経発火の計測が可能な超高感度・超高速赤色Ca2+センサ「R-CaMP2」を開発した。これは既存の赤色Ca2+センサに比べ感度が3倍向上し,かつCa2+濃度と蛍光強度の変化の関係を示すHill係数が1付近であることから,線形性が圧倒的に高い。

また,急性脳皮質スライスにおいて最小の活動単位である単一活動電位を発生させると,従来のR-CaMP1.07発現神経細胞に比べ,R-CaMP2発現神経細胞において有意に大きい蛍光強度の応答が生じた。信号対雑音比(SNR)は4.0倍に上昇し,立ち上がり時間は2.6倍早く,減衰時定数は3.4倍早いなど,複数のパラメータに改善があることを示した。

これらの改善されたパラメータと一致して,従来のR-CaMP1.07発現細胞に比べ,4~8倍に相当する20~40Hzもの高周波数の発火に追従する世界最高速のたんぱく質性蛍光Ca2+センサの作出に世界で初めて成功した。

またこのセンサと従来の緑色Ca2+センサを組み合わせることで,マウス大脳皮質における興奮性と抑制性の2つの異なる神経細胞種の神経活動を同時に計測することを可能にした。さらに,光遺伝学的手法との組み合わせも可能であることを自由行動下の線虫において証明し,神経ネットワーク解析に新しい道を拓いた。

研究グループはこの成果について,今後生きている哺乳類の脳の神経活動およびそのダイナミクスの多重計測を容易にし,精神疾患や学習・記憶障害などの病態解明および治療法の開発につながるものと期待している。

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