東大,人体の細胞内でナノサイズを規定する「ものさし」を発見

東京大学の研究グループは,超低温電子顕微鏡などを用いて,高等生物で初めてナノ分子定規の存在を明らかにした(ニュースリリース)。

人間の体を構成する細胞の内部には,一定の長さや大きさを持つ構造が数多くある。それらを形作る時,細胞が長さを測る方法として「ナノ分子定規」仮説がある。これは,一定の長さを持つタンパク質がナノメートル単位の定規として働き,細胞が作る構造の長さを制御するというもの。

ナノ分子定規の存在は,原始的な細菌(原核生物)やウイルスなどでは既に報告されてる。しかし,人間を含む高等生物(真核生物)にナノ分子定規が本当に存在するのかは,分かっていなかった。

繊毛は,長さ数㎛~数十㎛,太さ200㎚ほどの非常に小さな毛で,波打ち運動により液体の流れを作っている。身近な例では精子の尾の部分にあたり,精子はこれを使って泳いでいる。他にも,気管に入り込んだ異物を排出したり,卵管の中を卵子が進むのを助けたり,脳内で脳脊髄液の流れを作ったりしている。

研究グループは,ナノ分子定規の正体としてCCDC39とCCDC40というタンパク質に注目。この二つのタンパク質は,カルタゲナー症候群の主な原因遺伝子として知られていた。カルタゲナー症候群は,繊毛が正常に動かなくなることによって引き起こされる。しかし,CCDC39とCCDC40が欠けることで,なぜ繊毛の運動がおかしくなるのか分かっていなかった。

この原因を解明するために,研究グループが超低温電子顕微鏡を用いて,二つのタンパク質が欠損した繊毛の構造を観察し,96㎚単位の繰り返し構造が完全に失われていることを見いだし,CCDC39とCCDC40はペアになり,長さ96㎚のナノ分子定規として働くのではないかと予測した。

遺伝子操作によって二つのタンパク質を長くすると,120㎚や128㎚の繰り返し構造を持つ,自然界に存在しない繊毛を作ることに成功した。さらに,ナノ分子定規の遺伝子を操作してタンパク質の人工的な配列を作ることもでき,ナノ分子定規はダイニンモータータンパク質の配列順も決定していることも分かった。この性質を利用すれば,モータータンパク質を自由自在に配置した人工ナノマシンを作ることも可能になるという。

繊毛の運動不全を原因とするカルタゲナー症候群は繊毛が動かなくなると,気管に入った異物を排出できないので肺炎になりやすくなり,精子も動けないので不妊になる。さらには脳脊髄液が脳室に溜まって水頭症になり,心臓や肝臓の位置が逆になる内臓逆位という奇形の原因にもなる。研究グループは今回の成果から,カルタゲナー症候群の研究や理解に大きく寄与することが期待されるとしている。

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