愛媛大学,京都大学,立命館大学,米国コロラド州立大学,米国ペンシルバニア州立大学らの共同研究グループは,原始生命体に極めて近い超好熱菌の転写装置RNAポリメラーゼのX線結晶構造解析に成功した(ニュースリリース)。
転写反応において,mRNAの合成を触媒する分子はRNAポリメラーゼと呼ばれる。RNAポリメラーゼは,通常,複数タンパク質から成る巨大分子複合体であり,mRNAの合成に至る複雑な反応を転写装置として一手に担う。生命ドメイン(細菌、アーキア,真核生物)のうちアーキアと真核生物では,そのRNAポリメラーゼの「かたち」と「はたらき」がお互いによく似ている。
アーキア型RNAポリメラーゼは進化的に古い状態を保っていることが予想され,真核生物型RNAポリメラーゼとは転写反応に最低限必要な基本原理を共有していると考えられる。したがって,両者に共通する反応の基本原理を分子レベルで解明すれば,ヒトを含む真核生物型RNAポリメラーゼが高次生命現象を制御できるようになった,進化上の大きな手がかりを得ることができる。
両者を詳細に比較したところ,真核生物型RN ポリメラーゼのみに存在する「特異的挿入配列」が発見された。その「特異的挿入配列」を使って,真核生物型RNA ポリメラーゼは様々な基本転写因子と結合することにより,多岐にわたる高次生命現象の発現を制御していることが判った。
また,アーキアおよび真核生物RNAポリメラーゼは,「ストーク(煙突)」と「クランプ」が連動して転写反応を行なっていることが明らかになった。さらに転写促進因子TFE が「ストーク」と「クランプ」の間に結合することによって「クランプ」が開き,その結果,アーキアRNAポリメラーゼの転写反応が促進されることを見出した。
現在,アーキアの中に病原性を示す種がいるという直接的な証拠はないが,ヒトの歯周病や腸の消化・吸収および癌化に関与しているという推測もなされている。研究グループは今後,転写機構の基本原理を解明する学術的研究の発展だけでなく,RNAポリメラーゼに特異的に結合する化合物をデザインすることで,新規抗菌剤の創製に繋がるものと期待している。
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