京都大学と広島大学の研究グループは,エレクトロポレーション(電気穿孔)法を用いて,遺伝子改変ラットの作製に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
遺伝子の機能を生体レベルで評価するために,目的の遺伝子を導入あるいは欠損させた動物(遺伝子改変動物)が作製され,研究に用いられている。遺伝子改変動物は,受精卵へ目的遺伝子を導入したり,ZFN,TALENおよびCRISPR-Casなどの人工制限酵素を導入し,目的遺伝子を破壊することで作製される。
受精卵は直径が0.1mmと極めて小さく,その中に遺伝子を導入するために,マイクロマニピュレータが必須となる。マイクロマニピュレータは,遺伝子を導入した微細なガラス針を操作し,顕微鏡下で受精卵へ注入する方法で,その操作は繊細かつ熟練した技術を要するため,遺伝子改変動物を作製できる機関は限定され,研究が制限されていた。
一方,エレクトロポレーション法は,電気の作用により細胞に微少な穴をあけることで,そこから遺伝子を導入する方法。この方法は,マイクロマニピュレーション法よりも容易に遺伝子導入ができる。
しかしながら,哺乳類の受精卵は透明帯と呼ばれる殻に守られており,従来のエレクトロポレーション法では透明帯に穴をあけ,そこから遺伝子を導入することは困難だった。また,一度に強い電気パルスを与えて穿孔と遺伝子導入を同時に行なうために,受精卵へのダメージも大きいものだった。
今回の研究では,3ステップの電気穿孔を設定し,1ステップ目の電気パルスで細胞に穴を空け,2および3ステップ目の電気パルスで遺伝子を導入するという段階的な方法で,効率的に受精卵内へ遺伝子を導入することに成功した。近年,注目されているZFN,TALENおよびCRISPR-Casの導入にも成功し,目的の遺伝子を破壊した(ノックアウト)ラットの作製に成功した。
このエレクトロポレーション法による遺伝子改変動物作製法はTAKE(テイク)法と命名し,マイクロマニピュレータや熟練した技術を必要とせずに目的の遺伝子改変動物を短期間で作製することが可能。研究グループでは,多くの動物種の受精卵への遺伝子導入にも応用が可能であるため,研究の多様化・加速化が期待されるとしている。
関連記事「東大,二種類のペプチドを同時に翻訳することができる遺伝子改変翻訳システムを開発」「京大ら,新しい人工ヌクレアーゼの開発と,これを用いた遺伝子改変に成功」