理研,神経軸索の集団的な伸長を支える分子メカニズムを蛍光観察により解明

理化学研究所(理研)は,マウスの脳の発生過程において扁桃体の神経細胞の軸索が伸長する仕組みを調べ,軸索同士がお互いの接触を介して伸長運動を支えていることを発見し,さらに,その分子メカニズムを解明した(ニュースリリース)。

動物の脳の発生過程では,神経細胞が軸索と呼ばれる突起を伸ばし<別の神経細胞の樹状突起との間でシナプス結合をつくることにより,神経回路を形成する。それぞれの軸索は脳内の決められた経路に沿って伸長し,別の神経細胞に到達する。

その過程で,同じ種類の神経細胞の軸索が束を形成しながら伸長することが知られていた。しかし,隣り合う軸索の間でどのような情報のやりとりが行なわれているのかは明らかになっていなかった。

研究チームは,以前から細胞同士の接着に関わる分子カドヘリンスーパーファミリーに属する「プロトカドヘリン」の機能を調べてきた。その中で,プロトカドヘリン17(Pcdh17)が,マウスの扁桃体から視床下部方面へ伸びる軸索上に存在することに着目し,Pcdh17が軸索の伸長を制御しているのではないかと考えた。

Pcdh17遺伝子を欠損させたマウスを作製しその脳を蛍光観察観察したところ,扁桃体からの軸索の伸長が阻害されていることが分った。一方,Pcdh17を発現していない扁桃体の神経細胞にPcdh17を外部から強制発現させると,軸索の束の形成パターンが変化した。

またPcdh17は,軸索同士の接触部位に,細胞骨格の1つであるアクチン線維の形成に必要なWAVE複合体などのアクチン重合制御因子を集結させ,軸索の伸長運動を支えていることが分かった。

これらの結果から,扁桃体の軸索同士がお互いに伸長運動を支えながら集団で伸長すること,その制御のためにPcdh17が重要な役割を果たしていることが明らかになった。研究グループではこの成果について,神経回路形成の分子基盤の理解を進め,情動といった脳の高次機能の形成機構の理解につながるものと期待している。

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