産総研,転位密度400個cm-2の低欠陥単結晶ダイヤモンドウエハのコピー技術を実証

産業技術総合研究所(産総研)は,ダイレクトウエハ化技術により,転位など欠陥の極めて少ない気相合成単結晶ダイヤモンドウエハを作製できるダイヤモンドウエハの低欠陥コピー技術を実証した(ニュースリリース)。

ダイヤモンド基板の大面積化については,研究室レベルで2インチ大が実現している。しかし,低欠陥化はあまり進んでおらず,実用デバイスに要求される10アンペア級,更には100アンペア級の素子を実現するには,転位密度が現状の100分の1以下,すなわち,102個cm-2台の低欠陥ウエハが必要と考えられている。

ダイレクトウエハ化技術は,種結晶をあたかもコピーするようにウエハを作製する技術。今回,転位が極めて少なく歪も極めて小さい高温高圧合成ダイヤモンドを種結晶とし,ダイレクトウエハ化によってコピーウエハを作製した。

ダイレクトウエハ化では,あらかじめ種結晶の表面から1~2㎛の深さにイオン注入層を形成しておき,マイクロ波プラズマCVD法により,種結晶上にダイヤモンドを成長させる。このとき,成長したダイヤモンド層中に入る転位は,主に種結晶から引き継がれるものと,種結晶と成長層の界面から新たにできるものからなる。

そのため,低欠陥の種結晶を用いることにで,低欠陥ウエハをコピーできる。また,種結晶と成長層の界面から発生する転位が主になることから,ダイレクトウエハ化プロセスの良否を,得られたウエハの品質を指標として直接評価できる。

今回,ダイレクトウエハ化プロセスのイオン注入前にドライエッチングを導入し,基板製造の過程で入る表面付近の結晶構造の乱れた層を完全に除去した。さらに,イオン注入後の結晶成長では,結晶の成長を安定化するために添加する窒素ガスを100ppm以下のレベルで制御できるようにして成長層のひずみを抑制し,従来の約1/2以下の複屈折を示すウエハを作製した。

作製したウエハをX線トポグラフ法によって観察したところ,ウエハ内の2.3×2.5mm2の部分の転位密度として,400個cm-2を得た。これは一般的なダイヤモンド基板の転位密度の104~105個cm-2と比較して,ほぼ2桁小さく,ダイレクトウエハ化により作製されたウエハとしては最高の値となった。また,これまでに報告された気相合成ダイヤモンドの最高値(2×2mm2で400個cm-2以下)にも匹敵する。

この結果は,ダイレクトウエハ化技術によるウエハの低欠陥コピーが原理的に可能であることを示している。研究グループでは転位密度の面内均一化など,今後さらなる技術開発すると共に,低欠陥基板の10mm角程度への大型化,さらにはインチサイズのモザイクウエハの低欠陥化への展開などを検討するとしている。

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