京大,世界最高性能のガス分離膜材料を作成することに成功

京都大学の研究グループは,マイクロポーラスポリマー(PIM)と呼ばれる材料に特殊な熱処理を施し架橋構造を形成することで,世界最高性能のガス分離膜材料を作成することに成功した(ニュースリリース)。このガス分離膜(TOX-PIM1)は,従来用いられているガス分離ポリマー膜に比べて,ガス透過速度が約100倍,ガス選択分離度も約2倍という極めて優れた性能を示した。

福島原子力発電所の事故を機に,原子力発電からシフトしている火力発電は化石燃料を使用しているため,温暖化の原因となる二酸化炭素排出量の増加が大きな問題となっている。二酸化炭素を分離回収する際には,排気ガスに含まれる二酸化炭素と窒素をほぼ100%分離しなければならないが,現行なわれているアミンによる分離方法は分離回収に大量のエネルギーがかかるため,二酸化炭素を回収しながら二酸化炭素を排出するというジレンマがあった。

これに代わるものとして膜分離技術が注目を浴びている。しかし,現在実用化されているガス分離膜は,ガス透過速度と選択分離率が低いため実用化には至ってはいない。実用化にはガス分離膜の性能を激的に上げることが喫緊の課題となっている。

そこで研究では,PIM1の表面にエーテル結合による架橋構造をもつ薄膜を作成し,砂時計型分子ふるいの入口に当たる部分に,さらなる分離層を作成することでガス選択分離率の向上を試みた。

熱処理の際に,温度だけでなく空気中の酸素組成と圧力を制御した結果,酸素量の可変により架橋密度や厚さを自在にコントロールできることを発見。これにより,膜はガス透過速度を損なうことなく,ガス選択率を制御でき,CO2分離,O2分離,H2分離に非常に優れた性能を示した。

また,この共有結合層は,PIM1にゼオライト型のMOF(多孔性配位高分子)やシリカなどを複合させた複合膜にも作成することが可能であり,ガス選択分離率をさらに上昇させることに成功した。さらに,この架橋構造を持つマイクロポーラスポリマー膜は熱力学的にも非常に安定であり,またさまざまな有機溶媒に対しても耐性があるため,研究グループでは幅広い応用が期待できるとしている。

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