九州大学の研究グループは,金の粒径と担持密度を低減することで利用有効比表面積を増加させる戦略で,燃料電池セルに用いる白金使用量をこれまでの10分の1に削減することに成功した(ニュースリリース)。
燃料電池の触媒反応には高価な白金が使われており,燃料電池セルのコストの1/4近くを占めている。その触媒反応の際には,白金粒子の表面のみが利用されている。従って,白金の使用量を削減するためには,同じ白金の量でなるべく大きな表面を作り出せばよいことになる。
同じ重さ当たりの表面積(比表面積)を大きくする最も簡単な方法は粒子の直径(粒径)を小さくすること。研究グループは,触媒となる白金粒子を固定化する(担持する)導電性カーボン(ここではカーボンナノチューブ)にポリベンズイミダゾール(PBI)と呼ばれる接着剤のような物質をあらかじめコーティングしておくことで,白金粒子が極めて均一に担持できる技術を開発してきた。
従来の触媒作製手法と異なるこの独自技術「ナノ積層技術」を利用し,仕込む白金粒子の原料(白金塩)の添加量を尐なくすると,白金粒子が大きく成長できずに,小さく止めることができた。しかも,白金の粒径を小さくしても分布は均一に担持されているため,結果的に粒子同士の距離は離れることとなり,混み合って担持した場合と比較し,さらに白金表面が有効利用できることがわかった。
実際の燃料電池セルを用いた試験の結果,単位重さ当たりで比較した場合,粒径の小さい白金を用いた燃料電池セルは,粒径の大きい白金を用いた場合と比較し,同じ電圧で約10倍もの電流密度が得られた。これは言い換えれば白金を10分の1に減らしても同等の性能が得られることを意味している。
さらにこの研究では,2030年以降の目標とされている100°C以上での発電を既にクリアしているため,次世代燃料電池開発においても重要な結果と言える。100°C以上の発電では,従来の燃料電池システムに必要であった加湿器や冷却器が不要になるため,低コスト化に有利とされている。研究グループは今後メーカとテストなどを重ね,5年後の実用化を目指すとしている。
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