同志社大学の研究グループは,科学技術振興機構(JST)研究成果展開事業 スーパークラスタープログラムにおいて,レアメタルやベースメタルの製造方法として,省電力と低環境負荷を同時に実現できる革新的な電解採取法を開発,その核となる電解採取用陽極の事業化と電解採取プラントでの実用化に成功した(ニュースリリース)。
レアメタルやベースメタルは,リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池のほか,SiCなどのパワーデバイスなどで幅広く利用されている。これらの金属は鉱石中に含まれており,金属として取り出すために電解採取法による製造が行なわれてきた。しかし,この方法は大電力を消費し,また電解を行なう際に金属汚泥を発生するといった技術的課題があった。
今回の研究では新たな材料として,熱分解法により触媒活性の高い酸化物ナノ粒子を触媒活性の低い非晶質酸化物中に均一に分散した,ハイブリッド構造を有する触媒の開発に世界で初めて成功し,この触媒を備えた新たな電解採取用陽極とこれを用いる電解採取法に関する特許を国内外で取得した。
具体的には,酸素や塩素の発生に高い触媒活性と選択性を備えた新しい電解採取用陽極の研究を行ない,その結果,チタンを導電性基材として,その表面に数ミクロンの厚さで酸化物触媒層を形成した陽極の開発に成功した。
これと同様な構造の酸化物被覆チタン電極は前から知られていたが,今回開発された陽極は,酸素または塩素の発生に高い触媒活性を有する酸化物ナノ粒子を,これらの反応に全く触媒活性を示さない別の酸化物の非晶質相中に分散させたハイブリッド構造となっている点で従来とは大きく異なる。
このような構造をもつことで,触媒活性は従来に比べて10倍以上も向上した。その結果,従来の陽極を用いる場合に比べて,電解採取の電圧を最大700mV低減することに成功。電解採取の電解電圧は,目的とする金属の種類によってこれまでは1.9V~3.5Vの範囲となっていたが,この電解採取用陽極を用いることで36%までの電圧削減に成功した。
さらに,開発した電解採取用陽極では,酸素や塩素の発生に対して極めて選択的に機能するため,従来の陽極で問題であった他のイオンの反応が抑制され,その結果,金属汚泥の発生を防ぐことができるようになった。
これらの特許を米国のOutotec USA社にライセンシングし,実際の電解採取プラントに用いるメートルサイズの陽極の製造を行なうとともに,その評価を様々な電解採取プラントで行なったところ,従来に対して最大で36%の電力削減が可能であるとともに,金属汚泥が抑制されることを実証し,Cobre del Mayo社の銅電解採取プラント(メキシコ,年間生産量:30,000トン)への導入に成功した。
既に世界12か国で電解採取用陽極および電解採取法への全面的な転換が進められているなど,研究グループはこの研究成果が金属製造技術に革新的な進歩をもたらすものだとしている。
また,これまで廃棄物処理されていた金属汚泥や都市鉱山と呼ばれている廃電化製品などからの有価金属の回収にも利用可能なことから,これまでの金属製造プロセスを一新する技術としても期待している。
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