理研ら,中性子過剰なニッケルの2重魔法数が健在することを発見

理化学研究所(理研)と東京大学は,重イオン加速器施設RIビームファクトリー(RIBF)」を用い,陽子と中性子の数が両方とも魔法数(2重魔法数)となる特殊な中性子過剰核「ニッケル-78(78Ni:陽子数Z=28,中性子数N=50)」の魔法数が健在することを示す実験結果を得た(ニュースリリース)。

原子核がとくに安定になる陽子または中性子の数は「魔法数」と呼ばれ,これまでに2,8,20,28,50,82,126が知られている。魔法数は不変のものと考えられていたが,近年の研究から,陽子に比べて中性子が非常に多い中性子過剰原子核では,既存の魔法数が魔法数として成り立たなくなることや,新しい魔法数の出現が確認され,従来の理論を覆す可能性が出てきている。

なかでも,陽子の数(Z)と中性子の数(N)が共に魔法数(2重魔法数)となる特殊な中性子過剰核78Niについては,魔法数が予想通り顕れるか,消失するか大きな興味をもたれていた。しかし,非常に生成率が低い放射性同位元素(RI)であるために,その性質を実験で確認することができなかった。

共同研究グループは,RIBF で核子当たり345 MeV(メガ電子ボルト)まで加速した大強度ウラン(238U:Z=92,N=146)ビームを,標的となるベリリウム(9Be:Z=4,N=5)に照射し,78Niを含むさまざまな中性子過剰な不安定核を人工的に作った。そして,生成した不安定核を理研が独自に開発した寿命測定装置「WAS3ABi(ワサビ)」に打ち込み,崩壊するまでの時間(半減期)を精度よく測定した。

その結果,78Niよりも中性子過剰な79,80Ni(78Niに比べ中性子が1,2個多い核),コバルト-77(77Co; 78Niに比べ陽子が1つ少ない核)の半減期測定に成功した。魔法数が健在な場合,魔法数の前後で寿命が大きく変化する。観測結果から,78Niよりも79Niは3倍,80Niは6倍,77Coは10倍速く崩壊することが明らかになり,78Niにおいて2重魔法数が実現していることを示す最初の実験結果を得ることに成功した。

共同研究グループはこの実験で,コバルト(Co,Z=27),ニッケル(Ni, Z=28),銅(Cu,Z=29),亜鉛(Zn, Z=30)の中性子過剰なRIを生成し,計20種の半減期測定に成功した。このうち76,77Co,79,80Ni,81Cuの寿命測定の成功は世界初となる。

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