筑波大ら,同一の光子を放出する単一光子源を固体中に多数作製することに成功

筑波大学と物質・材料研究機構は,ダイヤモンド中のカラーセンターの一つであるSiV-センターを,高純度・高結晶性ダイヤモンド薄膜成長時に極微量の濃度に制御して導入し,単一光子源として作製することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

波長の決まった光子を一度に1個のみ発生する単一光子源は,量子暗号通信・量子情報処理に欠かせない。実用的な単一光子源であるためには,原子・分子を固体中に閉じ込めた形の固体素子が望まれる。

ダイヤモンド中のカラーセンター(点欠陥)は,優れた単一光子源として期待されている。量子情報処理では,離れた場所の固体量子ビット間で量子もつれを生成する上で,単一光子源が一つの候補だが,この場合,離れた単一光子源から放出される光子が,識別できない光子であることが必要。

しかし固体の単一光子源においては,この識別できない光子を発生させるのは至難のことだった。更に,明るく,光安定性に優れているだけでなく,単一光子源の発光波長を長波長化する事が求められていた。

今回の研究では,シリコン原子1個が炭素原子2個を置換しているSiV-センターに着目し,ダイヤモンド結晶中にSiV-センターの単一光子源を結晶成長中に作製することを試みた。単一光子源として観測されるには,SiV-センターは0.01 ppb以下(炭素原子1千億個に1個以下)の低濃度が必要になり,ナノダイヤモンドやイオン注入を用いる方法では,均一な特性を得るのは困難だった。

研究では,CVDダイヤモンド単結晶の高純度化・高結晶性化に取り組んだ。シリコン源として,プラズマによるエッチング速度が遅い炭化ケイ素をダイヤモンド基板とともに反応容器内に置いてCVD合成し,CVDダイヤモンド単結晶成長中にSiV-センターを単一光子源の濃度で導入することに成功した。この手法で0.001ppb ∼0.01ppbという極微量の濃度を制御することができる。

固体結晶中では,多くの場合,周囲の環境が微妙に異なることにより,個々の単一光子源ごとに発光周波数(発光波長)が変化することが課題となっていた。しかし今回,SiV-センター固有の発光周波数,線幅をもつ,即ち識別することが困難な光子を発生する単一光子源を多数作製することに成功した。

作製したSiV-センターは,例えば発光周波数4.068188×105 GHz(波長736.9118 nm) に対して,長時間にわたって±4 MHzという安定性を示すなど,量子情報処理への応用上優れた特性を持つ。

さらに,今回取り扱ったSiV-センターは,生体組織による吸収の少ない波長領域で発光する特徴と,発光の線幅が狭いという特徴を併せ持つ。このことは,SiV-センターを有する蛍光ナノダイヤモンドナノ粒子がバイオマーカーやドラッグデリバリーに応用できる蛍光物質としてきわめて優れていることも示している。

研究グループは今回の成果が,離れた位置における量子ビットのエンタングルメントの生成など,今後,識別できない光子を用いた量子情報処理への応用,量子通信の中継器,量子テレポーテーション,あるいは量子コンピューティングの新しい展開につながるとしている。

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