情報通信研究機構(NICT)は,イオントラップ型マイクロ波原子時計を開発し,現在放送分野や精密測定分野などで広く使用されているルビジウム原子時計を約5倍上回る精度を実現した(ニュースリリース)。
時刻と周波数は,ナビゲーションや高速通信,精密機器など社会インフラの重要基盤となっている。研究レベルでは光格子時計などの光時計の誤差10-18という驚異的な精度が実証されつつあるが,産業界では未だ電気信号の基準としてマイクロ波時計が利用の中心となっている。
中でもルビジウム原子時計は数十万円程度の安価で手軽なものながら,誤差10-13の精度が得られるため,精密測定分野や放送分野で広く用いられている。更に精度の良い原子時計として,水素メーザ原子時計(誤差10-15)が存在しているが,2,000万円程度の高価で重たい据置型であり,精度が2桁良い分,価格や重量も2桁大きくルビジウム原子時計と水素メーザ原子時計の間に大きなギャップがあった。
今回NICTは,ルビジウム原子時計と水素メーザ原子時計の間の大きなギャップを埋めるために,新しいイッテルビウムイオン原子時計を開発。原子捕捉型のマイクロ波原子時計では世界で初めてとするレーザ冷却を適用し,定期的にイオンを用いて磁場を測定することで,ルビジウムの精度を上回る原子時計を実現した。
原子時計を構成するレーザには,冷却用370nm,リポンプ用935nm,イオン生成用399nmの3本の半導体レーザを用いた。これにより,将来的に小型化,省電力化を進めることが期待できるとしている。
今回開発したイッテルビウムイオンを用いたマイクロ波原子時計を普及させ,高精度化することで,精密測定機器の較正や通信の大容量化に貢献することが期待でき,今後試作機の完成度を高め,小型化とコストダウンを進めることで実用機へと転換することを目指す。
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