理研,記憶免疫機能を持つナチュラルキラーT細胞を発見

理化学研究所(理研)は,免疫系の初期防御(自然免疫)で重要な働きをする「ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)」が,免疫記憶機能を獲得し,長期にわたり抗腫瘍効果を発揮することを明らかにした(ニュースリリース)。

NKT細胞は,ナチュラルキラー細胞(NK細胞)やγδT細胞と同様に自然免疫に属する自然リンパ球の1つで,がん細胞やウイルス感染細胞などを攻撃する。しかし,獲得免疫に属する免疫細胞のように長期に生存して抗原を記憶する働きはないと考えられていた。そこで,研究グループはマウスを用い,NKT細胞の抗腫瘍効果のメカニズム解明に取り組んだ。

共同研究グループは,NKT細胞を活性化する糖脂質「α-GalCer(アルファガラクトシルセラミド)」を細胞表面に提示した樹状細胞を作製し,これを投与してNKT細胞を活性化することにより,その抗腫瘍機能(エフェクター機能)を経時的に調べた。その結果,肺において9カ月以上という長期にわたって生存し,2度目の抗原侵入に対して迅速かつ強力に反応する「記憶免疫様NKT細胞」が存在することが分かった。

次に,この細胞の特徴を調べたところ,キラー細胞レクチン様受容体サブファミリーGメンバー1(KLRG1),接着分子(CD49d),細胞障害性顆粒(グランザイム A)などの分子を発現していることや,抗腫瘍作用を持つサイトカイン「IFN-γ」を多く産生することが分かった。

続いて,マウスに記憶免疫様NKT細胞を誘導し,4カ月後にB16悪性黒色腫を静脈内投与したところ,黒色腫の転移の抑性効果が認められた。また,RNAシークエンスによって特定の受容体クローンの蓄積が認められたことから,免疫記憶様の抗原選択を行なっている可能性が示唆された。

さらに,記憶免疫様NKT細胞の誘導は,樹状細胞以外の,例えばCD1dを発現させた他者由来の細胞(他家細胞)の線維芽細胞に,α-GalCerを提示させた細胞を用いても誘導できるため,樹状細胞由来分子に依存した免疫反応ではなく,CD1d発現細胞依存性であることも分かった。

自然リンパ球と考えられていたNKT細胞に,こうした特徴をもつ記憶免疫様NKT細胞を同定したことは,新しい発見。今後は新しいがん免疫細胞技術への研究への発展など,将来的により効率的な抗がん治療法の開発や抗腫瘍ワクチンの開発が期待できるという。

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