山梨大,宇宙で保存したマウス精子から健康な産仔を得ることに成功

山梨大学,宇宙航空研究開発機構,有人宇宙システム,日本宇宙フォーラムらの研究グループは,昨年8月4日にH-IIBロケット4号機/宇宙ステーション補給機「こうのとり」4号機で打ち上げ,国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟で長期保存したフリーズドライにしたマウスの精子を用いて,健康なマウスの産仔を得ることに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

将来月面基地やスペースコロニーなどが建設された場合,宇宙空間では人類だけでなく動物の生殖・繁殖も必要になると考えられ,それに関する基礎実験を行なう必要がある。しかし,生きた生殖細胞の胚をそのまま輸送することは従来の技術で難しく,宇宙で哺乳類の生殖に関する実験を行なうことは出来なかった。

今回,研究グループはは精子をフリーズドライ状態で保存する技術を用いて,マウス精子をISSへ運び長期保存する実験を開始した。打ち上げたマウス精子は,「きぼう」内で最長3年間保存したのち3回に分けて地上へ回収後,山梨大の研究室にて宇宙保存精子由来の産仔を作出し,宇宙放射線が精子に与える影響を調べる。

このほど9カ月間ISS内で保存されていた精子が地上に回収され,卵子との受精能や精子のDNA損傷度などが,同一条件で保存しておいた地上対象区と比較された。その結果,宇宙保存精子は9カ月間宇宙放射線にさらされていたにもかかわらず,顕微授精によって大部分の卵子が受精し,実験に用いた4系統のマウスすべてから合計25匹の産仔を得ることに成功した。
さらに,地上対照区と比較しても出産率に有意な差は見られなかった。

研究グループは今後,生まれてきた宇宙保存精子由来マウス(宇宙マウス)が正常かどうか,妊性や子孫への影響,寿命,網羅的遺伝子発現解析などを行なって調べる予定。来年以降に回収予定の2-3年間保存した精子についても同様に実験を行ない,今回の結果と比較する。

また宇宙飛行士が取り扱い容易な初期胚の自動解凍装置の開発を行なっており,本当の宇宙でマウス初期胚の培養実験を行ないたいとしている。さらに長期間保存でも影響がないことが確認できたら,「ノアの箱舟」など将来の可能性につながるという。

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