埼玉大ら,蛍光スペクトルを利用しマイクロ流路中の化学反応のリアルタイム評価に成功

埼玉大学の研究グループは,早稲田大学との共同研究で,蛍光スペクトルを利用することでマイクロ流路中の半導体量子ドットと,有機色素間の化学反応をリアルタイムで評価する手法を初めて確立した(ニュースリリース)。

流路幅が数10μm~数100μm程度のマイクロ流路中では,化学反応の領域が制限されるために,通常の化学反応より急速に化学反応が進行する。そのため,マイクロ流路を用いた化学反応システムは化学合成やバイオエンジニアリングシステムなどの幅広い用途展開が期待されてきたが,実際のマイクロ流路中での化学反応がどのように進行するかを評価する手段がなかった。

研究グループは,マイクロ流路中での化学反応を定量化するために蛍光スペクトルを用いた手法に着目した。また,対象物質として化学反応後は蛍光共鳴エネルギー移動を起こす半導体量子ドットを蛍光色素の組み合わせを用いた。

半導体量子ドットは,高い蛍光量子収率や発光波長の制御性などの利点からバイオイメージングへの応用が期待されている。研究グループは,この半導体量子ドットと蛍光色素を組み合わせた蛍光型pHセンサの研究を進めており,今回の研究ではこの材料系でマイクロ流路中の化学反応の定量化を試みた。

CdSe/ZnS 量子ドットと蛍光色素は,両者が化学反応を起こすことで,CdSe/ZnS 量子ドットから蛍光色素へエネルギー移動を起こす。そのため、CdSe/ZnS 量子ドットの周囲に結合する蛍光色素の量が増えてくると,CdSe/ZnS 量子ドットからの蛍光強度が減少し,蛍光色素からの蛍光強度が増加する。そのため,両者の蛍光強度比率を評価することで,この化学反応を評価できる。

使用したマイクロ流路の幅は200μmとした。最初に水分散させたCdSe/ZnS 量子ドットと蛍光色素を混合させてから,キャリアオイルと合流させる。その結果,キャリアオイルの流れの中にCdSe/ZnS 量子ドットと蛍光色素を含んだ水の液滴が形成され,一定方向に流れていく。

ここで,合流してからの液滴が流れていくことで,液滴中の化学反応が進行していくことから,測定領域に流れている液滴の蛍光スペクトルを測定することで,化学反応を定量化できる仕組み。蛍光スペクトルの測定には一般的には蛍光顕微鏡を用いた。

これにより,マイクロ流路中の化学反応を定量化することが可能になった。実験に用いた材料系では,1秒程度で反応が完了することが観察されたが,同じ材料系でバルクスケールでは30分程度反応が完了するまでの時間がかかることから,飛躍的に反応時間が短くなることを明らかにした。

今回の研究成果により,数10μm程度の微小反応場中の化学反応の定量化に関する研究が進むことが期待される。それに伴い,反応場の大きさや原料比率などを変化させたときの反応効率の差などの実験結果を解釈するための,新しい理論的解釈が生まれることも期待される。また,化学反応を効率的に進めるためのマイクロ流路条件の最適化にもつながり,マイクロ流路を用いた化学反応システムの構築にも貢献できるとしている。

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