京大,フォトニック結晶を用いて熱輻射を超高速に制御することに成功

京都大学の研究グループは,フォトニック結晶を用いた新光源を開発し,物体からの熱輻射を超高速に制御することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

一般に,物体を加熱すると,物体と光の相互作用に基づいた熱輻射と呼ばれる現象が生じ,物体から光が放射されるようになる。白熱電球や太陽などは,まさしく,この現象に基づいて光を放射している。しかしながら,加熱された物体からの熱輻射をオン・オフするためには,物体自体を温めたり冷やしたりする必要があるため,そのオン・オフには相当な時間(数秒~1/100 秒程度,周波数にすると 1~100Hz)がかかるという問題があった。

今回,研究グループは,物体の温度を上昇・低下させるのではなく,物体と光の相互作用そのものを電気的に変化させることにより熱輻射を超高速に制御するという,全く新しい方法を見出した。一般に,物体の温度を上昇させると,物体内の電子の動きが活発になり,光(電磁波)を放出するようになる。

こうして電子から発せられた光は,物質内部で再び電子と相互作用し吸収されます。このような光の放出と吸収は物質内で繰り返し行われ,やがて熱的に安定した状態に落ちつき,その結果,物体からその温度に応じたパワーの光(熱輻射)が放出されるようになる。

この過程を考慮すると,物体の温度を変化させなくても,物体内部で生じる電子と光の相互作用の大きさを直接制御することができれば,熱輻射パワーを変化させられることがわかる。例えば,物体内で光を放出・吸収する電子そのものの数を高速に変化させることができれば,それに伴い物体から生じる熱輻射のパワーも高速に変化することが期待される。

研究グループは,この考えに基づいた熱輻射光源を開発した。その構造は,
① 2種類の半導体の薄い層を交互に積層した構造(量子井戸)
② ①の層を挟むp型層とn型層(PNダイオード)
③ ①②の層に空気孔を周期的に導入した人工的な光ナノ構造(フォトニック結晶)
の3つの構造を組み合わせることで構成されている。

この光源を加熱すると,量子井戸内の電子は離散化された2つのエネルギー状態間の遷移を繰り返し,2状態のエネルギー差で決まる波長を中心に赤外光を放出・吸収する。このとき発生した光は,③のフォトニック結晶構造内で強く共鳴しつつ,また電子と相互作用し,最終的に光源の外部に熱輻射として放射される。しかし,量子井戸から電子を追い出すことが出来れば,加熱しても量子井戸から赤外光が生成しない。

この2つの状態を②のPNダイオードで高速に切り替える。ダイオードに電圧を印加しない状態では,量子井戸内に電子が存在して,強い熱輻射が発生するが,n型層が正となるような電圧を印加すると,量子井戸内の電子が量子井戸の外へと移動するため,熱輻射強度が大きく減少する。

ここでの発光波長は,9.2μmだが,量子井戸の構造やフォトニック結晶構造を変化させることにより,様々に変化させることが可能。また,量子井戸の材料系を変化させることで(例えば、窒化ガリウム系の量子井戸を用いることで),光通信で重要な1.5μm帯の光を発することも可能になると期待される。

さらに,光源に印加する電圧を0Vと10Vの間で高速に切り替えることで,光源から生じる熱輻射パワーの高速変調実験を行なった。その結果,物体から生じる熱輻射のオン・オフの切り替えが,従来と比較して6,000倍以上の速度(周波数にして600kHz)で可能になった。

この成果は,物理的に大変興味深い結果であるだけでなく,各種の環境センシングやバイオ分析用の新しい赤外線光源の実現にもつながり,様々な新しい応用をもたらすことが期待できるとしている。

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