筑波大学の研究グループは,天然キラル物質である綿の表面で重合反応を行なうことにより,キラルな構造をもたず光学活性を示さないモノマーから,キラルで光学活性を示すポリマーを合成することに成功した(ニュースリリース)。
セルロース高分子(綿・麻など)やタンパク質高分子(絹など)といった天然繊維は,キラルなシート状構造やらせん構造を形成している。これらは光学的に活性で,円偏光を吸収したり,光を回転させる性質を持っている。
今回の研究では,綿の繊維の表面界面でアニリンの重合反応を行ない,導電性高分子ポリアニリンを合成した。通常ポリアニリンは光学活性を示さないが,綿の上で合成することにより,円偏光二色性を示すことがわかった。これは綿のキラル構造を転写しながらポリアニリンが合成されたことによる。
キラルなポリマーを合成する化学的手法は一般に不斉重合と呼ばれる。研究グループはこの研究で開発した,繊維表面のキラリティーを転写して,アキラル(キラルでない)なモノマーからキラルなポリマーを得る方法を「繊維界面不斉重合法」と名付けた。
この方法では重合反応の過程で,分子レベルでの綿のキラルな形状を,ポリアニリンが転写したために,光学活性を持つポリアニリンを得た。これにより天然物,天然繊維を利用したキラル反応の可能性が広がった。この方法は分子インプリンティング(ある分子を鋳型として,鋳型と同じ形・大きさの空隙をポリマー中に構築する方法)の可能性も秘めている。
関連記事「東大ら,低エネルギーメモリにつながる量子臨界性をキラルスピン液体に発見」「理研,キラル磁性体中の「スキルミオン」が示す回転現象を発見」「NIMS、光学純度を容易に決定できる新しいキラルセンシング技術の開発に成功」「理研など、放射光でキラル物質の3次元透視を実現」