分子研,人工光合成などの光触媒設計につながる新たな計測法を開発

自然科学研究機構分子科学研究所(分子研)の研究グループは,人工光合成などの反応の引き金となる光励起状態の分子について,電子のやりとりのし易さを直接測定することに成功した(ニュースリリース)。

人工光合成などの光物質変換反応系では,物質が光を吸収することによって生じる高いエネルギー状態(光励起状態)が,物質を変換する反応を引き起こすが,その際,光励起状態における電子のやりとりのし易さ(酸化還元電位)が反応の進行を決定づける。従って,光励起状態の酸化還元電位を知ることは光物質変換反応系のしくみを理解し,より優れた反応系を構築するために極めて重要になる。

しかし,従来,光励起状態の酸化還元電位を電気化学的手法のみで直接評価することは困難とされてきた。研究グループは今回,測定溶液に光を照射しながら電気化学測定を行なうとどのようなことが起こるのかを検証するために,光照射の影響をほとんど受けない物質の測定を行なった。

通常の電気化学測定法を利用した場合,物質の光吸収ではなく,光照射に伴い生じる溶液の対流によってノイズが発生し,酸化還元電位の決定が困難になることが明らかになった。そこで,そのようなノイズが生じない測定条件を検討した結果,簡便な条件(電極の高速回転,速い電位走査,あるいは溶液層の薄層化)を適用するのみでノイズを抑制することに成功した。

続いて,光照射により変化が起こる分子の測定を行なった。具体的には,安定な光励起状態をとることが知られているルテニウムトリスビピリジン錯体(Ru(bpy)32+)を測定対象とした。その結果,上述のノイズが生じない条件のうち,溶液層の薄層化を用いることで光励起分子を効率よく捉えることが可能となり,(Ru(bpy)32+)の光励起状態に由来する電流の観測,また,その電位の測定に成功した

研究グループでは今後,さらなる検証を経て,提案する光電気化学測定法が確立されれば,光触媒探索の幅が飛躍的に広がり,人工光合成をはじめとしたエネルギー変換反応の分野はもちろん,より広い範囲で光反応化学に大きな影響を与えることが期待できるとしている。