国立遺伝学研究所は,野生由来マウス系統であるMSMのオスが示す過剰な攻撃性について,その過剰な攻撃行動の調節にかかわる遺伝子が少なくとも2つの染色体に存在し,それぞれの遺伝子は異なった性質の攻撃行動に関与していることを明らかにした(ニュースリリース)。また,この高い攻撃性にはセロトニン神経系に変化が生じていることを示した。
マウスのオスは自らのなわばりを守るために,侵入者のオスに対して攻撃行動を示す。これは,相手を追い払うことが目的で,けがを負わせたり殺したりしてしまうことは,実験用マウスではほとんどない。一方,日本の野生マウスを系統化したMSM系統のオスは,高い攻撃性を示し,離乳後にオス同士を一緒に飼育すると,性成熟後に激しいけんかが起こり,兄弟や,ときには交配相手であるメスを殺してしまうことがある。
このMSMの高い攻撃性に関わる遺伝子座を明らかにするために,研究グループはコンソミックマウス系統群を作り,順遺伝学的な手法を用いて解析を行なった。コンソミックマウス系統とは,ほとんど全ての遺伝子は実験用マウスのC57BL/6J系統と同じだが,1種類の染色体(全部で21種類ある染色体のうちの1つ)のみMSM系統に由来するものを持っている系統。
コンソミック系統群の解析を行なうことによって,MSMの高い攻撃性に関わる遺伝子が,4番染色体と15番染色体上に存在することを明らかにした。また,それぞれの染色体が行動に及ぼす効果を調べることで,違った性質の攻撃行動にかかわっていることがわかった。
MSM型の4番染色体を持つコンソミック系統は攻撃をひとたび始めてしまうと,異常に高いかみつき行動や追いまわし行動を行ない,交配相手のメスに傷を負わせるような個体も存在した。一方,MSM型の15番染色体を持つコンソミック系統は,多くの個体が攻撃を開始しやすい傾向にあるが,攻撃を始めてもその頻度はそれほど高くないという特徴を持つ。
攻撃行動には脳内のセロトニンが関与することが多くの研究から報告されている。今回,MSMや高い攻撃行動を示すコンソミック系統において,セロトニンの合成酵素であるTph2遺伝子の発現が増加し,セロトニン神経系に変化が生じていることも明らかにした。
今回の研究は,攻撃行動の調節に関わる遺伝子がそれぞれ違った性質の攻撃性に関与しており,その遺伝的基盤の複雑さを示すもの。今後,攻撃行動と遺伝子の関係をより深く理解する上で重要な情報をもたらすと考えられる。