東芝は,高性能プロセッサ向けに,1Mbクラスの新方式磁性体メモリSTT-MRAMメモリ回路を開発した(プレスリリース)。
プロセッサの消費電力は,プロセッサのマルチコア化に伴い,内部にあるキャッシュメモリ(SRAM)容量増大とともに,メモリの消費電力が支配的となってきている。特に,メモリ内部の漏れ電流(リーク電流)に起因する電力が問題であった。
この問題を解決するために,現在利用されている揮発性メモリを不揮発メモリに変えることが期待されてきた。東芝では,以前からSTT-MRAMという磁性体メモリを開発し,単体素子レベルで,プロセッサのキャッシュメモリに必要な高速動作と低消費電力化を実現してきている。
しかし,キャッシュメモリに必要なMbクラスの大規模なメモリ回路では,RAM回路を高速動作用に設計すると回路にリークパスが残り,リークパスを無くすと,動作速度が遅いという二律背反の問題があった。さらに,素子のプロセスバラつきに起因した読み出しエラーが大きいという,大きな課題が残されていた。
そこで同社は今回,新しくSTT-MRAMメモリ回路を開発し,上記の課題を同時に解決することに成功した。具体的には,MRAM単体素子であるMTJを2個用いたデュアルセル型のメモリ回路設計を採用し,リーク電流パスを無くしつつ,MTJの抵抗が相補的になるようにして読み出し,かつエラー時にはMTJを1個ずつ読みだすという新しいエラー訂正の機構を追加した。
これらの結果から,ハイエンド向けマルチコアプロセッサの高容量キャッシュメモリに適用した場合,従来のプロセッサに対して性能劣化が無い状態のまま,消費電力を60%削減することができると分かった。つまり,電力性能が従来の約2.5倍に向上することになる。この電力性能は,SRAM以外のあらゆるキャッシュメモリと比較して,世界最高となるもの。
この成果は,NEDOのノーマリオフコンピューティング基盤技術開発プロジェクトにて進められているもの。同社は今後,これまで開発した新型磁性体メモリ素子と回路をさらに改良し,プロジェクト終了の2015年度までに,消費電力を10分の1に抑えることが可能な不揮発キャッシュメモリ技術の開発を目指す。