情報通信研究機構(NICT)は,既存のインフラを用いず,端末のみでネットワークを構成する端末間通信ネットワークシステムを開発した(プレスリリース)。地域内を移動する人やバスなどを含めた柔軟なネットワークを構成できるため,地域社会に密着した幅広い情報の配信・収集・共有が可能かつ,災害等にも強いネットワークを従来に比べて低コストで簡便に構築できる。
一般のワイヤレス通信ネットワークは,基地局やハブ・アクセスポイントといった中央制御装置の制御により通信が行なわれているため,中央制御装置が故障・停止した場合やネットワークに輻輳が発生した場合には,機能の喪失や低下等が発生する課題がある。また,一般に端末装置と比べ大型・多機能・高消費電力・高価であることが多く,より低コストで簡便にネットワークを構築できる技術の実現が求められていた。
今回開発したシステムの通信端末には,屋内設置型サイネージ端末,バス内設置型サイネージ端末,屋上設置型端末,情報収集型センサ端末,携帯型端末などがある。近接する通信端末間の通信は,電波産業会標準規格ARIB STD-T108及び国際標準規格IEEE802.15.4gに対応している。
例えば,サイネージ端末や携帯端末などからイベント情報などを入力すると,近隣の他の端末に伝送される。また,バス内サイネージ端末は,バスの利用者への周知とともに,バスの移動に伴い他の通信端末へ接近すると,その端末へ情報を伝送する。このように,人やバスの移動により,情報がバケツリレーのように周知・共有されていく。
また,屋上等に端末を設置することで,携帯端末よりも広範囲に情報を伝達することができる。情報収集型端末は,気象センサ,照度センサ等によりセンサデータを収集し,付近を走るバスなどに伝送し,バスが接近した別の場所にある管理サーバにデータを伝達する。
バス内の端末は,バス停付近の端末と通信することで,バスを待つ人たちへのバスの接近予告やバスの位置管理(バスロケーション)も実現できる。また,端末に搭載されているGPS情報によるバスの運行管理にも活用できる。なお,情報をネットワーク全体に拡散せず,一部の端末間のみに限定して送受信を行うグループ通信機能を持たせることもできる。
このネットワークを地域型情報共有システムとして利用した場合,例えば,行政サービスの配信,地域イベントや商品広告の配信,環境情報の共有などに活用できる。行政サービスとイベント情報などは,端末から入力する以外に,自治体や事業者のホームページから自動的に取り込むように設定することが可能。
また,グループ通信機能を使えば,小型の携帯端末により,高齢者や子供の見守り,安否確認などにも活用できる。さらに,同報機能を利用することにより,緊急,災害時の警報や注意報をすべての端末に一斉に配信することができる。
NICTでは,東京都港区台場地域で運行している台場シャトルバス「お台場レインボーバス」とその沿線施設,並びに京都府精華町で運行している「精華くるりんバス」とその沿線施設に端末間通信ネットワークを配置し,バス内サイネージ端末と各施設に設置されたサイネージ端末などを用いた行政サービスや地域イベント情報等のバスによる運搬・配信実験や,バス接近予告などの実験を関係自治体や事業者の協力を得て実施している。