産総研ら,CNTが高密度に成長する仕組みを解明

産業技術総合研究所(産総研)と高輝度光科学研究センター(JASRI)は共同で,「カーボンナノチューブ(CNT)の束」が高密度に成長する仕組みを大型放射光施設SPring-8で解明した(プレスリリース)。この成果は,情報機器を効率的に冷却するための放熱材料の開発を促進すると期待されるもの。

情報機器の低消費電力化は,持続可能なエネルギー社会を実現する上で重要な課題となっており,情報機器の効率的な冷却が求められている。CNTは,現在使われている放熱材料の一つであるインジウムに比べて30倍以上の熱伝導性を持つため,優れた放熱材料として期待されている。

しかし,CNTの太さは1~数十 nmしかないため,放熱材料として使うには多数のCNTがブラシ状にそろった束が必要となるが,従来の熱CVD法では束の密度が低く,利用することができなかった。

産総研の研究グループは,熱CVD法に比べて20倍の密度を持つCNTの束を成長させる,熱CVD法を改良したSTEP(ステップ)法という成長法を開発している。STEP法では,触媒である鉄(厚さ2 nm)の下にチタンの下地(厚さ1 nm)を敷き,そして450 ℃という低温からアセチレンを入れることで高密度化したCNTの束が得られる。

450 ℃という温度は,通常は鉄を還元するには低すぎる。それにも関わらず,なぜ高密度なCNTの束が成長するのか,その理由は分かっていなかった。そこで研究グループは,SPring-8を用いて高密度化の理由の解明を試みた。

CNTの成長には触媒の状態が影響すると考えられる。研究グループはCNTの束の成長過程における触媒の状態を,光電子顕微鏡(PEEM:ピーム)と用い,軟X線光電子分光法(SXPES: エスエックスペス),硬X線光電子分光法(HAXPES:ハックスペス),X線吸収分光法(XAS:エックスエイエス)の3種類の測定法で精緻に分析した。

その結果,室温の状態では鉄はすっかり酸化しており,チタン下地は少し酸化しているが,温度を上げていくと,チタン下地が鉄の酸素を吸い始めることが分かった。そして450 ℃でチタン下地はすっかり酸化し,還元された鉄が粒子になるのに都合の良い下地となる(鉄は酸化物の上で粒子化しやすい)。また,鉄は低温で還元されるので,密度の高い粒子になることができる。最後にアセチレンを入れると,高密度の粒子の上に,高密度のCNTの束が成長することが分かった。

今回,温度によるチタン下地と鉄の変化の様子とCNTの高密度化の仕組みが明らかになったことで,従来よりも低温な環境での成長と,触媒の下地が,触媒を高密度な成長に適した状態にする役割を果たしていることが分かった。

この結果をもとに,触媒とその下地をさらに改善することで,より高密度なCNTの束を成長させることができるようになる。今回の研究成果により,CNTを用いた放熱材料の早期実現が期待される。