東北大,成形性・接触性に優れた全固体電池向けリチウムイオン伝導体を開発

東北大学大の研究グループは,全固体電池のための新しいリチウムイオン伝導体KI-LiBH4を開発した(プレスリリース)。リチウムイオン電池はモバイル機器のみならず,電気自動車や非常用電源などの大型用途にも広く利用されている。リチウムイオン電池はその動作電圧が約3.8 Vと高いことから,電解質に耐電圧の高い有機溶媒が使用されている。

しかし,これらは可燃性であり,最近の B787 の火災事故のように発火・破損事故が報告されている。そこで,有機溶媒に代わり固体電解質の開発が行なわれており,電池が不揮発性・不燃性の固体材料のみで構成されれば安全性の改善や,電極材料や電池形状の自由度も向上する。

研究グループは,従来から知られている酸化物系や硫化物系の固体電解質に比べて飛躍的に成形性が高く,電極材料と良好な接触性を示す水素化物系固体電解質LiBH4(水素化ホウ素リチウム)に着目した。

これまでに LiBH4は115℃以上で安定な高温相においてLi+イオンが高速で移動できることが知られており,LiBH4は高容量負極材料である Li 金属と良好な界面を形成し全固体電池の高出力密度化を実現しうる電解質として注目されている。

しかし高いLi+イオン電導を示すLiBH4高温相ではイオンの二次的な伝導が示唆されており,結晶のある方向ではイオン伝導性が低く電極反応に寄与できない可能性がある。そこでこの研究では,Li+イオン伝導において異方性を示さない等方的な岩塩型構造のLiBH4に着目して新規材料開発を行なった。

岩塩型構造のLiBH4は200℃以上,かつ4万気圧以上の極限状態でのみ存在する。従って,固体電解質として応用するためにはその高温高圧下の岩塩型構造を常温常圧まで安定化することが求められる。研究では岩塩型構造が常温常圧で安定である KI(ヨウ化カリウム)中にLiBH4をドープするという,従来とは逆転の発想により岩塩型構造の LiBH4の合成に成功した。

Li 電極を用いて直流法と交流法で測定した抵抗値はほぼ等しい値となり,この結果は KI – LiBH4の固溶体中では主に Li+イオンが電流を担っていることを表した。すなわちドープした Li+イオン濃度が少ないにもかかわらず,電流は Li+イオンによって担われていることがわかった。この結果は。Li を全く含まない材料中に Li 含有化合物をドープし。Li を“寄生”させることで純 Li+イオン伝導体を合成可能であることを示唆するもの。

現状では高イオン伝導度,成形性,負極との電気化学的安定性や大気中での安定性など応用面において好ましい特性を全て併せ持つ電解質は未だ開発されていないが,Li+イオン伝導材料に全く関係の無い母格子を選択し,そこへ Li を少量ドープするという今までに無かった発想で材料系の開発が可能になるものと期待される。