東京工業大学大学院総合理工学研究科准教授の脇慶子氏らは,欠陥構造を導入した多層カーボンナノチューブ(CNT)が燃料電池や金属空気電池などの空気極(正極)に応用可能な高い触媒活性を持つことを見出した(プレスリリース)。
燃料電池などの触媒は資源的に希少で高価な白金が使われている。このため,カーボンに金属や窒素を添加した触媒などの研究成果が報告されているが、触媒活性のメカニズムはまだ解明されていなかった。
脇氏らは,ナノ触媒微粒子を担持する方法で,酸化物微粒子の触媒活性により多層カーボンナノチューブの炭素を酸化させ,CNT表面にナノオーダの細孔を形成•制御することを実現した。この手法は従来の気体あるいは液体酸化剤を用いた処理法とは異なり,ナノオーダーの細孔の形成が可能。
次に,炭素の酸化によってエッジに形成された酸素官能基をアルゴン雰囲気や真空中で加熱•除去した炭素欠陥を持つ多層CNT(DMWNT-Ar900)が高い触媒活性を発現することを確認した。電流電圧(CV)測定の結果,酸素還元反応の開始電位が約0.3Vシフトし,可逆水素電極に対して0.73V程度であることがわかった。
1.85mg/cm2のDMWNT-Ar900触媒を空気極に用いた発電実験では,0.74Vの開放起電力と100mW/cm2以上の最大出力が得られた。これは金属や窒素を添加していない炭素電極としては最も活性の高いもの。
また,欠陥構造導入後の多層CNTに金属不純物はほとんど残っていなかったことから,多層CNTの高い触媒活性は不純物によるものではなく,人工的に形成した欠陥構造によるものであることを確認した。
この欠陥形成の工程は粉体の製造で一般的に利用されている工程であり,酸化コバルト触媒も容易に回収できることから,新たな設備投資が要らずランニングコストも抑えられる。金属や窒素をほとんど含まない触媒は,炭素系触媒の活性を理解するための重要な手掛かりとなり,燃料電池や金属-空気電池などの触媒設計に役立つと期待されるほか,ナノリアクターやドラッグデリバリーシステムなど様々な応用への展開などが期待できる。