東京大学,国立天文台,東京工業大学などの研究者からなる研究チームは,宇宙誕生後10億年の時代に発生した,ガンマ線バーストと呼ばれる大質量星の爆発現象をすばる望遠鏡で詳細に解析し,中性原子の割合が高い水素ガスによってガンマ線バーストの光が吸収されている兆候を初めてとらえた(プレスリリース)。
研究チームは,2013年6月6日に発生した GRB 130606A というガンマ線バーストの可視光スペクトル を高精度で測定した。赤方偏移 5.913 という、再電離期に近い遠方宇宙で発生しながら,極めて明るい可視残光であったため,ガンマ線バーストによる宇宙再電離研究のために理想的な事例となった。
精密解析の結果,周囲にある中性水素ガスによる吸収のためにスペクトルの形がわずかに変形していることがわかった。研究チームは,スペクトルから読み取れるさまざまな情報を駆使して,この中性水素成分は,ガンマ線バーストの周囲の銀河間空間に中性度 10% 以上(全ての水素原子核のうち,10% 以上が中性原子)の水素ガスが存在しているという解釈が最も自然であることを見いだした。
ガンマ線バーストの周囲でこれほど中性度の高い銀河間ガスの兆候は,今回初めて見つかったもので,この時代に再電離前の中性水素ガスがまだ残っていることを示唆している。今回見つかった兆候は,これまでで最も不定性が少なく,直接的な方法で得られたもの。
宇宙に存在する元素の主成分は水素だが,宇宙が約140億年前に誕生したとき,水素原子は原子核と電子がバラバラの電離状態にあった。その後,宇宙誕生後約40万年の時代に,温度低下により原子核と電子が結合して電気的に中性な原子になったことがわかっている。
しかし,現在の宇宙の水素は再び電離状態にあり,宇宙誕生後約10億年の頃に,初代の銀河や星の形成に伴い水素ガスが電離された(宇宙再電離)と考えられているが,詳しいことはまだよくわかっていない。特に,再電離が起こる前に存在したはずの中性水素ガスを検出するために遠方宇宙の観測が精力的に行なわれているが,まだ決定的な証拠は得られていない。
今回の成果は,人類による遠方宇宙の観測が,再電離よりさらに昔の時代に踏み込みつつあることを示唆するもの。