理研,らせん状の電子の軌道を起源とする鏡像構造を実証

理化学研究所(理研)は,らせん状に配列した電気四極子(電子雲の歪み)を起源とする鏡像構造(キラリティ)という概念を提唱し,実証した。電気四極子とは電子の軌道状態の一種で,プラスの電荷分布とマイナスの電荷分布がそれぞれ2つずつの合計4つが空間的に組み合わさった状態のこと。

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元素の周りの電子雲の広がり方を量子力学的に表したものが「電子軌道」。電子軌道は必ずしも球形ではなく歪みのある形状をもつこともある。電気四極子は,この電子軌道(電子雲)の球形からのずれ(歪み)の一種。

3d遷移金属化合物や4f希土類金属化合物などの物質中で,電気四極子がどのような形状で、どのように配列しているかが,超伝導現象や巨大磁気抵抗現象のような電気的・磁気的さらには光学的な性質に重要なことが知られている。従って,電気四極子の状態を調べれば,その物質の電気的・磁気的・光学的性質の手がかりを得ることができる。

これまで,放射光共鳴X線回折という測定手法によって電気四極子が測定され,物質中で電気四極子が全て同じ方向性に配列した強的秩序状態や互い違いになった反強的秩序状態などの電子状態が,ある種の3d遷移金属化合物や4f希土類金属化合物で起きていることが明らかにされてきた。

共同研究グループは,その実験的な検証が難しいという理由のため,これまで見過ごされてきた「電気四極子配列の鏡像異性」という概念を提唱し,実証した。大型放射光施設SPring-8の放射光を用い,円偏光共鳴軟X線回折という特殊なX線回折測定の手法により,電子雲歪み配列を可視化することに成功した。

さらに電気四極子配列の鏡像異性構造の対をなす右巻きおよび左巻き構造が物質中で共存している顕微鏡像(ドメインイメージ)の観測にも成功した。この研究で提唱・実証したらせん状に配列した電気四極子を起源とする鏡像構造およびそのドメイン構造を,円偏光などの外的摂動によって自在に制御することが可能になれば,新規の長期保存型光学メモリー材料などの開発につながると期待できる。

詳細は理研 プレスリリースへ。