京大,体の大きさに合わせて神経細胞の大きさを制御するしくみを解明

京都大学生命科学研究科教授の上村匡氏,同博士後期課程大学院生の下野耕平氏らの研究グループは,ショウジョウバエの感覚神経をモデル系として用いて,体の大きさに合わせて神経細胞の大きさを制御するしくみを解明した。

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人の臓器は体の大きさに応じることが知られている。このような臓器サイズの調節様式の一つとして,体の大小に応じてそれぞれの細胞のサイズを調節する方法があり,近年その調節機構が明らかになってきた。しかしながら,神経細胞のような複雑な枝分かれの形態を示す細胞のサイズがどのように制御されているかについては,これまでほとんど分かっていなかった。

研究グループは,ショウジョウバエの感覚神経をモデル系として用いて,体の大きさを変化させた時に神経細胞の「サイズ」と「形(枝分かれのパターン)」がどのような影響を受けるかを調べた。その結果,飢餓条件にして体が通常より小さくなったショウジョウバエでは,神経細胞は形を保ったまま小さくなっていること,つまり通常の神経細胞のミニチュア型(精巧な縮小コピー)となっていることを発見した。

さらに研究グループは,この「形を保ったままでの神経細胞のサイズの制御」に重要な遺伝子を見つけるために,遺伝学と次世代シーケンサを用いた解析を行ない,ヒトのゲノムにも保存されているCHORD遺伝子を発見した。

神経細胞が CHORD遺伝子の機能を失うと,適正な栄養条件下で体全体は十分に成長しているにも関わらず,神経細胞の突起はミニチュア型になってしまう。遺伝学的な解析の結果,CHORDタンパク質はTor complex 2 (TORC2)を介して栄養条件あるいは体の大きさを感知し,神経細胞のサイズを制御していることを見出した。

ある種の神経細胞は,進化の過程において動物の体が大きくなるにつれて,その形を保ったままでサイズが増すことが知られている。CHORD やTORC2 は植物からヒトまで広く保存されており,それぞれの動物種において CHORD は,体の大きさに合わせて神経細胞のサイズを調節することに重要な役割を果たしているのではないかと予想される。もしもこのような神経細胞のサイズの調節が破綻すれば,神経細胞,ひいては脳の機能に障害が発生する可能性がある。

詳細は京都大学リリースへ。