東北大学は,村田製作所,情報通信研究機構(NICT),および千葉大学と共同で,デジタルテレビジョン放送の空き周波数帯域(TVホワイトスペース)を選んで無線通信するためのワンチップ可変表面弾性波(surface acoustic wave,SAW)フィルタを世界で初めて開発した。
TV ホワイトスペースの利用では,地域や時間帯によって空いている周波数帯域が異なるため,状況に応じて利用する周波数帯域を選択しなくてはならない。従来,携帯型無線情報端末の周波数選択には,SAW フィルタや薄膜バルク弾性波共振子(film bulk acoustic resonator,FBAR)フィルタが使われてきた。
これらのバンドパス特性は固定だが,既存の通信システムでは,限られた数の割り当てられた周波数帯域を選択すればよいため,それぞれに対応するフィルタが搭載されていた。しかし,TV ホワイトスペースを利用する通信システムでは,状況によって使用できるチャネルが異なるため,チャネル数分の送受信フィルタとそれらを切替えるためのスイッチを準備する必要があり,システムの小形化と低コスト化は難しいと考えられてきた。
今回,東北大のグループは,SAW フィルタ上に薄膜可変容量をモノリシックに集積化し,バンドパス特性を変化させられるSAW フィルタ(可変SAW フィルタ)のワンチップ化に成功した。薄膜可変容量は,電界によって誘電率が変化するチタン酸バリウムストロンチウム(barium strontium titanate,BST)でできており,10 個のSAW 共振子それぞれに直列または並列に接続されている。薄膜可変容量の静電容量を変化させると,SAW フィルタのバンドパス特性が変化する。
これをNICTが開発してきたTVホワイトスペース対応のコグニティブ無線機に搭載して,通信デモンストレーションに成功した。TVホワイトスペースの利用にあたっては,空き周波数帯域を選択するためのフィルタの小形化が課題だったが,今回開発したワンチップ可変SAWフィルタにより,TVホワイトスペースを利用する無線通信システムを携帯電話やスマートフォンなどで利用することに道がひらけた。
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