産業技術総合研究所(産総研)太陽光発電工学研究センター 先端産業プロセス・高効率化チーム研究チーム長の柴田肇氏,同 主任研究員の石塚尚吾氏は,CIGS太陽電池の一種で,インジウムを含まない広禁制帯幅のCuGaSe2薄膜太陽電池の動作原理であるヘテロp-n接合の形成メカニズムを解明した。
これまで,CuGaSe2のn型化は困難とされていたが,銅(Cu)が極端に欠乏したCuGaSe2の異相層はn型層として働き,p型CuGaSe2層とp-n接合を形成して太陽電池として動作することがわかった。この発見により,現在製造されているCIGS太陽電池より広禁制帯幅を持つ新しい太陽電池デバイス構造が提案でき,エネルギー変換効率の向上といった高性能化に向けた研究開発の加速が期待される。
インジウムを含まないCuGaSe2太陽電池は,広禁制帯幅CIGS太陽電池としてその重要性が認識されていたが,高い変換効率を得ることが極めて難しく,これまで10 %を超える変換効率の報告例はなかった。しかし最近,産総研ではこのインジウムを含まないCuGaSe2太陽電池で初めて10 %以上の変換効率を得ることに成功している。
CuGaSe2はp型半導体であり,安定的なn型化の報告例はまだない。つまりホモp-n接合の形成は困難であり,太陽電池デバイス作製には硫化カドミウム(CdS)などのバッファ層(n型半導体)が用いられ,CuGaSe2層とバッファ層とがヘテロp-n接合を形成すると考えられてきた。
ところが,高い変換効率が得られたCuGaSe2太陽電池デバイスを電子線誘起電流法により観察したところ,p型CuGaSe2層とn型CdS層の界面にはp-n接合は形成されず,p型CuGaSe2層表面に存在する銅(Cu)欠乏異相層がn型層として働き,p-CuGaSe2層とp-n接合を形成していた。理論的にCuGaSe2のn型化は難しいとされるが,今回の結果は,CuGaSe2の銅欠乏異相はn型化が可能であり,p-CuGaSe2とp-n接合が形成できる可能性を示唆している。
また,この銅欠乏異相層には,CuGaSe2層中よりも高濃度のカリウム(K)やナトリウム(Na)などのアルカリ金属元素が存在することが確認された。Naは高い変換効率のCIGS太陽電池には欠かせないドーパントであり,その効果の一つとしてp型伝導性の向上が知られている。今回の結果から,アルカリ金属元素はp型伝導性制御だけではなく,より精密なp-n接合の制御を行なう上で今後重要な鍵となると期待されるという。
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