独立行政法人物質・材料研究機構博士研究員の土屋敬志氏らの研究グループは,究極的に薄い酸化グラフェンを利用した高性能ナノスケール素子の実現の鍵となる,バンドギャップの制御をその場で自在に行なうことに成功した。
グラフェンは,次世代のナノスケール電子素子や回路を形成するための有望な新材料「ポストシリコン」として期待されている。しかし,グラフェンはバンドギャップが無い金属的伝導性を有する炭素系材料であり,このことが電子素子を構築する上で課題となっていた。これまでに,外部電圧によってバンドギャップをその場で制御する方法が提案されていたが,外部電圧の印加を止めると制御したバンドギャップが消滅するという揮発性の制御法だった。
今回,外部からの電圧印加により,グラフェンに酸素原子を吸着させたり,脱着させたりすることによって,グラフェンを構成する炭素原子の結合状態を変化させてバンドギャップを形成させ,しかもその場で自在に制御することに成功した。この方法は,電圧印加を止めても制御したバンドギャップが持続するという不揮発性の特徴を有してる。グラフェンへの酸素原子の吸着と脱着の制御は,固体内で水素イオンの移動が可能な固体電解質を用いて,その固体電解質内の水素イオンとグラフェンに化学結合している酸素原子との間で電気化学反応を生じさせることによって実現した。
この制御技術は,グラフェンを用いた不揮発性スイッチング素子などの高性能ナノエレクトロニクス素子の実現へ近づくだけでなく,ダイヤモンド,カーボンナノチューブやフラーレンなどの新規炭素系材料における物性探索や制御の有力な手段として期待される。
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